26-2 君を探して

 



 考えた。

 京都から東京まで、

 リニアモーターカーで1時間半。

 そして同窓生から今井の住所を聞きだしても、

 おそらく家にいないだろう。

 LINEは繋がらない。

 電話も繋がらない。

 なんとしても連絡を取らねば、

 一刻の猶予もない。


「そうか」


 動転しそうな気を鎮めながら、

 スマートフォンの画面をタップし、

 剣で十字を描がいたアプリを起動した。

 行こう。

『リアル・ファンタジー・ワールド』へ

 

「ログイン!」


《ファンタジー通信》の機能だげを使い、

 冒険者ウエスギから、

 スノーナウへと通信を試みた。




──────────────────



〈冒険者スノーナウは 現在 通信を切断してます 

 ログアウトしているか 戦闘中か いずれかです〉



──────────────────




 想定内。

 スマートフォンのアプリの設定から、

 VRグラスへのリンクをONにした。

 狭い部屋では動き回れないので、

 アバターの操作を音声コントロールにした。

 机の上のVRグラスを手にとり、

 顔面に装着した。

 ぼくは、目の前を見た。




──────────────────




〈冒険者ウエスギよ どこからリプレイ しまか?〉


 《旅立ちの丘》 

 《テーゼの街》 

 《冒険者の泉》




──────────────────




「冒険者の泉へ!」とぼくは叫んだ。





 VRグラスに立体映像が映しだされた。

 冒険者の泉が現れた。

 賑やかな音声が聴こえる。

 広場では軽快なワルツがながれ、

 ダンスパーティーを楽しむ冒険者で華やいでいた。

 庭園に咲きみだれる色とりどりのバラ、

 湧きでる泉の清らかさが、

 天国にいると勘違いさせる。


 エメラルドグリーンの水面に映る、

 自分のアバターをながめた。

 アニメキャラ化した顔立ちに、

 Tシャツにチノパン姿の賢者だ。

 1年半ぶりに来たゲームの世界は、

 特に変わらない。


「スノーナウ……」


 胸の奥からせり上がる焦りを抑えた。

 広場にある、

 大型モニターのランキングをにらんだ。

 即刻、発見できた。

 上位にいたから。





。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




   〈ソロランキング 93位〉

    スノーナウ   レベル 151

    職業  S級 魔法剣士  

    異名  疾風の絶対零度 

    所属パーティー ジェミニジェミニ

   《現在  99階 最終階 戦闘中》




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。





「ラスト99階で、戦闘中」


 ……おそらく、まだ生きている。

 だが、会う手段がない。

 レベル1のウエスギでは、99階まで行けない。

 LINEも電話もファンタジー通信も、

 再び試みたがダメだった。

 けれど、まだ道はある。


「ジェミニジェミニ。所属パーティーだ」


 スノーナウのパーティー、

 ジェミニジェミニを検索した。





。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




  〈パーティーランキング 6025位〉

   パーティー名  ジェミニジェミニ 

   メンバー    2名


   スノーナウ   レベル 151  

   職業   S級 魔法剣士


   ノブナガ    レベル 136  

   職業   S級 武士

 

    ホワイトフラワー 

   冒険者の墓地にて永眠  

 

  《冒険記録 99階 攻略中》




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。





 二年生の最後に見たときは、

 メンバーは3名だった。

 ホワイトフラワーという名の冒険者が、

 永眠となっていた。


「ノブナガ。パーティー仲間だな」


 スノーナウの冒険者フレンズ経由で、

 ノブナガへの通信をためした。

 頼む、応答してくれ。



──────────────────



 ウエスギ『ノブナガ。応答せよ。

      ノブナガ。応答せよ』



──────────────────




 声が音声入力され文字に変換されていく。

 応答はない。

 VRグラス、視界上、

 ブルーの字句が虚しく表示を繰り返す。

 早く今井と連絡を取らなければ。

 じりじりと砂を噛むように時間が過ぎていく。

 胸が疼く。

 ぼくは、現在時刻を確かめた。

 午前、3時19分。

 




──────────────────



 ノブナガ『はあ? ウエスギ? あんただれ。

      オレ、忙しいんだけど』



──────────────────




 ノブナガからの返信が表れた。

 神の文字にみえた。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る