22-2 誕生日と賭け




 冬めいた寒い日だった。

 受験時期のため、

 教室の雰囲気は引き締まっていた。

 クラスメイトは先生の教鞭に傾注し、

 休み時間も勉強をしていた。



 授業が終わり、帰ろうとした時だった

 一人の生徒に、ぼくは呼びとめられた。

 同じクラスの、仲良くしていた女子だった。

 だれもいない廊下の隅に連れられて、

 そこで、ぼくは告白された。

 予期せぬ出来事に、しばし躊躇した。

 ぼくも彼女の明るい性格と

 端整な容姿に惹かれていたから。

 だけど、


「つき合えないけど、

 これからも友達でいてほしい」


 ぼくは本心を告げた。


「わかったよ……」


 そう言って彼女は泣きながらうなずいた。

 それから、バイバイと手を振り去って行った。

 顔いっぱいに泪と笑顔をうかべて。

 いまにも折れそうなのに、

 気丈に振る舞う彼女。

 その姿が、

 ぼくの気持ちを厳しく、ゆさぶった。

 その泪が、

 乾いていたぼくの心根に、

 一雫の恵みをもたらした。


 素直な気持ちを、相手に打ち明けることは、

 勇気がいる。

 胸をひらいて、心を裸にしたら、

 自分自身のプライドが、

 破戒されるかもしれない。

 破戒。

 それでも、

 つたえたい。

 つたえなければならない。


 告白。

 それはあまりにも残酷すぎる、崇高、

 崇高なる衝動。

 自分が自分であるために。

 絶対に逃げてはいけない、

 勇気によってのみ拓かれる、道程。

 ぼくは、そう感じた。




 吐く息が白かった。

 気温はだいぶ下がっており、

 ぼくは、冷たい手をポケットにつっこんだ。

 バス停では生徒が、

 スマートフォンを見ながら列になっていた。

 明日からマフラーをしてこようと思いながら、

 周辺の風景を見渡した。

 季節は移り変わっている。

 上空は、雲のない、静謐で凛々しい青色。

 澄み切った冷たい空気。

 水溜まりは落葉で埋め尽くされ、

 切れ目の水面には、初冬の空が映っていた。












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