22-3 誕生日と賭け
令和18年、12月23日。
あれから一年も経った。
図書室でプレゼントを贈ったこと。
クリスマスイヴのこと。
いつだって思い返せるけど、
だんだん遠い日の出来事となり、
仮初めのように現実感がうすくなっていた。
ぼくと今井との接点は、週に1度くらいだった。
ファンタジー通信を使い、
賢者ウエスギとして、
魔法剣士スノーナウと交流していた。
年の瀬の真夜中。ぼくは、
一通のメッセージを送った。
ウエスギとスノーナウの通信ではなく、
上杉と今井のLINEから。
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上杉『今井雪さん。
お誕生日おめでとうございます』
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すぐに返事がきた。
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今井『上杉さま。お久しぶりです。
ありがとうございます』
上杉『十八歳です。成人になりましたね』
今井『はい。あの、記憶があやふやなのですが、
以前メールで、
上杉さまを、不審者と決めつけてしまい、
すみませんでした』
上杉『そんなこともありました。
記憶喪失は治りましたか?』
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反応がない。
今井との関係がこじれだしたのは、
二年の三学期から。
その時期から、
記憶喪失という設定が始まったのだ。
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今井『いえ、まだ治っていません』
上杉『発病してから、一年ちかく経っています。
早く、二年生の二学期のことを、
思い出してください』
今井『イヤです』
上杉『わかりました。
いまのままで大丈夫です(本当に)』
今井『はい。上杉さまのことは、
探偵に調査させました。
自主性が強く、頭の良い方なんですね』
上杉『今井さんほどではないです』
今井『てへぺろ。上杉さま。そんなことより、
夜空を見てください。
南西の方角に、
ふたご座が輝いています』
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部屋の窓を開けた。
寒々しい夜気が、
いっぺんに室内になだれ込んだ。
電気を消し、
窓から頭を突き出してみたら、
視界全域に満天の星がはじけた。
あまたの星々に惚れ惚れしつつ、
ぼくは、久方ぶりに星座を観測した。
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上杉『双子座、どれですか?』
今井『星と星を結んでいくと、
左足の折れた、クワガタに見えるやつ』
上杉『左足の折れた、クワガタ?』
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冴える夜空に寒星が瞬いている。
星座は詳しくないので、
スマートフォンで検索した。
双子座。
「あれか」
左右対称にならんでいる星座だ。
まあ、左足の折れたクワガタ、
に、見えないこともないか。
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今井『クワガタの左目の、いちばん明るい星。
あれが、
わたしの星、ポルックスです。
わたしの故郷です。
地球からの距離は、33光年ですよ』
上杉『途方もない、遠くから来たのですね』
今井『てへぺろ。
今宵は、ふたご座の流星群。
流れ星が見えます』
上杉『そうですか。お願い事はしましたか?』
今井『はい、もちろんです』
上杉『どんな?』
今井『地球。やっちゃってください』
上杉『危険な思想をおもちですね』
今井『ふたご座から観測すれば、
地球の爆発も、
耽美なる閃光になるでしょう』
上杉『まあ、33光年も離れて見れば。
そうなりますね』
──────────────────
もう返信がこなかった。
終わりか。
ぼくの方からメールするのも気がひけたので、
電気をつけ、
やりかけの問題集の続きをした。
カランコロンカラン カランコロンカラン カランコロンカラン……
びくっと心臓が動いた。
音声通話の呼出音が、机の上で音をたてている。
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