10-8 文化祭  賛成




 今井の演説に聞き入った。

 自殺を闇雲に忌避するのではなく、

 受容せよと説き伏せてくる。

 ぼくは、今井の顔を見た。

 微塵の迷いのない強い意志を感じた。

 いつもの彼女ではない目つきで、

 何者かにとり憑かれ、

 代弁しているようだった。



 切り替わったスクリーンを眺めた。




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  『自殺は本能である』



 1 人間存在は、苦悩する宿命を背負っている。

   競争社会を生きる上で、

   心身に不利な条件をもつ人々とっては、

   顕著である。

   彼らにとって、

   自殺は最後の、救済の道である。

  


   不利な条件の例

 

  a 顔の悪さ。

  b スタイルの悪さ。

  c 頭の悪さ。

  d 親ガチャに外れたケース。

  e 愛情、教育、財産、を授けられない子ども。

  f 負け組コース。

  g 悪運。

  h その他多数。


   本人の努力では、改善が難しい。 




 2 力のある個体が

   優れた遺伝子を残す進化論、

   適者生存の原理がある。

   それによれば、

   負けた生物が自殺をするのは、

   合理的な行動である。


 ※ 例

   ボス争いに負けた、雄ライオンが、

   餓死を選ぶケースがある。




 3 命をもつ有機体は、死の本能を内在している。

   本来の無機的状態へ還ろうとする、

   衝動を秘めている。




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  『宗教と文化的な視点』



・人間が創作した宗教観では、自殺を否定する。

 けれど実際は、

 神は、人間に自殺する自由をあたえている。


・主君や妻など愛する人の死後に、

 故人の魂の救済のために、

『殉死』する理念がある。





 以上の理由により、

 一定数の自殺希望者がいるのは当然である。

 彼らに対して、

 苦しまずに安らかな死を保証するため、

 自殺管理法を成立するべきだ。





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