8−6 雨と虹




 雨音は徐々に弱まっていった。

 水飛沫を上げて走る車と、

 下方から生徒の声も聞こえてくる。

 ぼくと今井は窓辺に立ちならび、

 ボーッと佇んでいた。

 はたと、雲の切れ間から一閃が降りた。

 上空から、

 刻一刻と幾本も光の筋が降りてくる。


 そして ──虹が現れた。



 赤。橙。黄。緑。青。藍。紫。

 虹だ。

 ぼくたちは、

 窓枠から頭を突きだし、空を仰いだ。

 空ににじむ淡い七色の反射光が、

 一大なアーチとなり天上を翔ける。

 まるで精巧に合成された、

 CGエフェクトみたいに幻想的だった。


 ぼくは、横にいる今井を見た。

 目をみひらき、

 顎を上げ、

 かたくなに空を追いかける。

 虹に夢中になっている、

 そんな君の横顔に、ぼくは見惚れていた。

 君はまぶしすぎた。

 夏のまばゆい閃光を浴びて、

 リアルとはおもえない

 ピュアな透明性を放っていた。


 ぼくは、決してふれてはいけない、

 高貴なものを、

 目のあたりにした感覚を覚えていた。



「この虹、なんか、偽物みたいだね」


「まあな、素粒子だから」


「あっ……そっか、知ってた。

 ぜんぶ、ちっちゃい、つぶつぶだもん」



 突如、一陣の風が吹いた。

 君の首を裸にした。

 スローモーションにみえた。

 しろくて

 ほそくて

 もろくて

 おれそうな首。

 君の漆黒の髪が、

 幾千の絹の糸のようにはだけていく。

 うつくしかった。

 

 きまぐれのように、

 君の毛先がぼくの左腕を撫でた、

 君の香りにつつまれた。

 ぼくは、願った。

 このまま、時が、止まればいいと。


 まばたきをするのも忘れて、

 君という現実を、ぼくは、

 ふたつの眼に焼きつけていた。

 ぼくは、おもった。


 ──生とは、神様がくれた贈り物だと












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