8−7 雨と虹




 リィーン。

 熱帯夜、硝子の風鈴が部屋に響いた。

 スイカを一切れ口にふくむ。

 サクッとした食感に、

 太陽の光を凝縮した果肉が、 

 舌の上でとけていく。


 ぼくは休憩を終え、勉強を再開した。

 机に向かったが集中できなかった。

 時計を見た。夜の11時を過ぎている。

 目をとじた。

 まぶたの裏に、今井雪、

 彼女のビジョンがおとずれてくる。


 凛とした瞳

 ちいさな唇

 黒髪の香り

 白いセーラーに透けそうな身体の輪郭。

 脈動のスピードが強く速くなっていく。

 ベッドに寝転がり、自分の胸に手をあてた。


 ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ………… 



 内部にはげしく動いている物がある。

 筋肉と骨の内側に、

 血管と神経がからみつく奇異な物体が。

 生き物のように、生き生きと勝手に活動していた。

 心臓だ。

 今井が問いかけた一言が、

 ぼくの頭のなかで反芻する。




「だれが、

 ──わたしの、心臓を動かしているの?」




 それらから逃げるように、

 体を起こし、部屋の窓を開けた。

 暑苦しい空気とともに、

 視界には、夏の大三角が飛びこんできた。



「星か……」


 見ていて思った。

 星のない広大な夜空の闇のなかにも、

 見えないだけで、

 幾億光年の彼方で、

 星々は燃えているのだろう。

 星空を眺めているだけなのに、

 胸が切なく疼く。

 深遠なる闇の夜空へと、吸い込まれたくなる。



 無窮なる宇宙。

 微小にきらめく幾千の星とおなじく、

 ぼくの熱情も冷めることはなかった。













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