5-3 夏休み、第2会議室

 



 ご飯を口にしながら、今井の方をチラリと見た。

 手作りの唐揚げ弁当で、

 今井は、おかずの唐揚げをじっと凝視していた。



「この唐揚げが、わたしの、生贄。

 昨日まで空を飛んでいたニワトリ。

 殺されて、油地獄、死体になった。

 死が、お弁当箱にひそんでいる」



 迫真の演技で一人語り、

 中二病、全開だ。

 だから、ぼくは普通に伝えた。


「今井さん、

 食事中の言葉には、気を使ってください」


 注意した矢先、両耳に人差し指を突っ込んだ。

 無表情で聞こえないフリをしている。

 なんなんだ、この女の子はいったい。



「上杉ちゃんって、身長と体重いくつ?」


 真ん中の席に座る、小嶋がきいてきた。


「180センチ、68キロあたりかな」


「バランスいいなあ、うらやましいよ。

 おれ、成長期、もう一回きて、

 身長のばしてーよ!」


 小嶋は、焼き魚を頬張りながら嘆いた。

 そして白飯を口にかき込む。

 早食いだ。

 今井のほうは背すじを伸ばし、

 ゆったりとよく噛んで食べていた。

 箸の持ち方、

 ご飯を口元に運ぶ動作、

 食事の所作が上品で美しい。

 けれど頭が、頭の中が少し……怪しい。



「小嶋はいくつ?」


「174センチに、82キロだよ」


 まさにキャッチャーが似合う体格だと思った。

 小嶋は、坊主頭をポリポリとかき、

 冷やし中華をあっさりと平らげた。



「二人とも、

 どうして、わたしにはきかないの?」

 わたしの、身長と体重」


 今井の声だった。

 不思議そうな顔をしていた。

 ぼくと小嶋は顔を見合わせ、

 そして、小嶋は右をむいた。


「今井ちゃん、

 そんなこと、ふつう、女子にはきかないぜ。

 おれたちは常識人だぞ」


「でも、わたしは女子であるまえに、

 内申同盟の同志だから。遠慮しないで」


 目をほそめ、にっこりして教えてくれた。


「わたしの、地球服。

 高さ、159センチ。重量、47キロ、です」



 会議室に数秒間の沈黙が続いた。



「地球服、なにそれ?」


 小嶋は怪訝そうにきき、ぼくは観察モードに入る。

 今井は、自分の左腕をつまみながら答えた。


「この肉の塊が、地球服。

 地球の環境では、

 肉、を装着しないと形をたもてないの」


 声を低めにして、

 科学者が説明するみたいな口振りだ。

 おそらく、

 知的なイメージのキャラを演出している。


「地球服は、便利な面もあるけど、

 熱さや寒さに弱いし強度もない。

 劣化も激しく、シワもできる。

 まあ、使用時間は、100年が限界よ」


 しろい左腕を撫でながら、今井が続ける。


「さらに、この地球服、

 他の生物を殺して、その死体を、

 毎日、口から食べないと、死んじゃうの。

 センスの悪い設計なのよ」



 今井は、ため息を漏らしながら言った。

 ぼくも小嶋も黙々と箸を動かした。

 今井は、深刻な中二病なのか、

 もしくは、さらなる深刻な病を抱えているとか。

 でなければ、ユーモアのセンスが、

 大幅にズレているだけ。

 ぼくは、グルグルと思考の迷路に迷っていった。












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