2-2 100年間の仮想現実

 



 ぼくは、窓辺に立ち、外を見た。

 澄みきった青い大空、

 まぶしい光と熱い空気、

 目を閉じる。

 それから、いつもまた思い返す。

 2年前の夏のことを。


 ぼくは、高校二年生だった。

 夏休みの学校、

 5階の会議室

 窓辺にならび、

 君とぼくは、外をながめていた。


 眼下に広がるグラウンド、

 ぼくたちは、空を見上げた。

 あの時、

 君は、水色のような声で、ぼくに問いかけた。




「──だれが、

 わたしの心臓を動かしているの?」



 自動的に動いている心臓。

 意思で止めることができない心臓。

 いったいだれが動かしているのか?


 ぼくは、答えられなかった。

 わからなかった。

 なにも言えなかった。


 だから、あれからずっと、

 答えを探している。

 自分の胸に手をあて、ずっと探している。

 君を。

 切れてしまった、糸を手繰り寄せるかのように、 

 君を探している。

 


 けど、見つからない。

 見つからないから、

 ぼくは記憶の世界へと入っていく。

 

 いまでもはっきりと、記憶している。

 君の存在を初めて知った時の、

 ぼくの胸の衝動。

 あの日、あの瞬間から、

 ぼくの世界が、音を立てて動きはじめた。

 忘れない。

 それは、夏休み前、

 社会の授業中だった──……









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