100年間の仮想現実

2-1 100年間の仮想現実




 青い空、白い雲。

 アスファルト、

 キラキラな光の破片が散らばっていた。

 まぶしい日差しのなか、

 セミは全身全霊で愛の歌を叫んでいる。

 向日葵はいつも太陽の行方を探していた。



 令和19年。

 ぼくにとって、19回目の夏になる。

 ぼくは、十九歳になった。

 高校を卒業して、大学生になった。

 場所も時間も変わった。

 それでも、ぼくは、

 忘れられなかった、

 君のことを。

 本当に忘れられなかった。

 この季節が来るたびに、思い出す。


 君がいた、夏の光を──



 君は、ぼくに教えてくれた。

 ありふれた日常に埋もれていく、

 この世の理、摂理、命、

 そんな漠然とした真実の欠片を。

 ぼくは断言できる。

 君は、ぼくが、

 この世で見てきた、最も美しい現象だと──





 スマートフォンに保存された、

 二人の思い出を見た。

 一枚の画像が輝いた。

 18輪の白い花束、君が贈ってくれたもの。

 あのころの、

 奇跡のような時間にはもどれない。

 ぼくの心のなかで、

 記憶になった君だけが、

 いつまでもきらきらしていた。





 そんな季節のなか、

 ぼくは考えていた。

 自分の未来の、あらゆる選択肢を。


 あまりにも、

 リアルに感じる、この現実世界。

 人生という、

 100年間の仮想現実を、どう生きるべきか?








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