第29話 ようこそ個性豊かな最強美少女スライムが住まう喫茶店へ

 ロティリアは手放した剣を拾って鞘に納め、大の字に寝転がっていたメアはひょっこり起き上がり、既に魔力が尽きてしまったセリアが少し残念そうな表情を浮かべていた。


 俺も拘束魔法を解き、ダリスを開放する。


 皆が俺を中心に集まって来た。


「ダリス、俺達の勝ちだ。龍の血液は譲ってくれるってことで良いな?」


「……調子に――」


 ダリスは勢い良く立ち上がり、両手剣を振り上げる。


「――乗んじゃねぇえええッ!!」


「そこまでよ」


「なっ……!?」


 今まさに俺目掛けて剣を振り下ろそうとしていたダリスの喉元に、フウカが槍の切っ先を向けていた。


 ミズハもいつでも抜刀できる構えを取っていたし、エリンもナイフを逆手に取っていた。三人の殺気が否応なしにダリスの行動を制限する。


 しかし、ダリスの怒りは収まらないようで、声を荒げた。


「い、いいかアラン! 別にお前が勝ったわけじゃないッ! お前は一人じゃ何にも出来ないエンシェンター。ただのお荷物だッ! ただ単に、お前の連れが強かったってだけの話だ!」


「その通りだ、ダリス」


 俺は別にダリスに反論したりはしなかった。ある意味で、ダリスの言っていることは正しい。


「コイツらは強い。俺の自慢の仲間だ。今回の勝利もコイツらあってのもので、俺はほとんど何もしてない」


「若、それは謙遜が過ぎるというものであろう。若の支援魔法があっての勝利。拙らは皆、若が後ろについていてくれるから存分に戦えるのだ」


「ミズハ……」


「ま、ミズハの言う通りよ」

「ふふっ、そうですね」


「お前らまで……」


 あまり直接褒められた経験がないので、俺は妙にむず痒く感じてしまった。


「っ、気に入らねぇ! アランが後ろにいるから何だってんだぁ!? 物は言いようだなぁ? 用は、仲間の後ろでコソコソ隠れてるだけ――」


「――アンタ、ただアランが羨ましかっただけでしょ?」


 ダリスの罵倒を遮って、フウカが言った。


「『どうして俺じゃなく、一人で戦うことすらできないアランが信頼されてるんだ』って感じかしら? アンタの思ってることは」


 その疑問に答えてあげる、とフウカは続ける。


「アランは仲間のことを考えて戦い、アンタは自分のことだけを考えて戦ってる。その差よ」


「な、何だとッ!?」


「アンタはそんなことにも気が付かず、アランさえいなくなれば自分が信頼されると勘違いしてアランを追放した。違う?」


「なっ……ダリス、それは本当なんですか!?」


 ロティリアがダリスに問う。


「貴方は言った。アランを危険な目に合わせないためにパーティーから追い出すんだと。その言葉は嘘だったのですか……ッ!?」


「そんなっ……」

「……」


 ロティリアとセリア、メアの視線がダリスに集まる。


「あぁ、そうさ。別に俺はアランが心配でパーティーを追放したわけじゃねぇ。単に目障りだったからだ。どいつもこいつもアランアランってうるせぇんだよ!」


 ダリスは俺を指差す。


「コイツより俺の方が強い! 冒険者は弱肉強食の世界――弱いアランじゃなく、強い俺が慕われるべきだろッ!?」


 その言葉に、皆が押し黙った。


 そして、ロティリアが静かに沈黙を破った。


「……ダリス。冒険者は確かに弱肉強食の世界です。けど、強いはずの貴方に、もう私はついていこうとは思えません」


「は? 何言って……?」


 ロティリアの言葉が理解出来ないといった風に呆然とするダリスに、セリアが言う。


「私も、かな。今このときをもってパーティーを抜けさせてもらうね……。ダリス君、何も単純な戦闘力が強さじゃないよ? 少なくとも、アラン君はそういうのとは違った強さを持ってると思うの」


 最後にメアも、特に何も言うことなくダリスを一瞥したあと、ダリスから離れていく。


「お、お前ら……!」


「ダリス」


 俺がそう呼び掛けると、ダリスは虚ろな視線を向けてきた。


「パーティーにいるとき、お前が俺のことを嫌ってるのは知ってた。けど、それでも俺はお前を信頼してたぞ。だって、仲間を信頼するのが冒険者っていう職業で一番大切なことだと思うからさ」


 じゃあな、と言って俺達は王都へ龍の血液を買いに戻っていった。


 ダリスと別れたロティリア、セリア、メアはその後も三人でパーティーを組み冒険者を続けるそうだ――――



◇◆◇



 あの激闘から数週間が経過していた。


 俺達は相変わらずセルティエの街外れにある小高い丘の上の喫茶店を営んでいる。


「ご主人様、お客様二名が入られます」


 エリンの知らせに俺は頷きつつ「いらっしゃいませ~」と客を迎える。


 開店したばかりの頃と比べたら、だいぶ客足が落ち着いてくれたが、それでも忙しいことに変わりはない。


 だが、何より大変なのは――――


「……あの、貴方がどんな依頼でも引き受けてくださるという喫茶店のマスターですか?」


「え?」


 はい、コレですよ。

 メニューの注文ならいざ知らず、時々こういった裏メニューな案件が転がり込んでくるのだ。


 そして、俺の性格もあるのだろうが、わざわざここまで足を運んでくれた人の頼み事となったら断り切れないところがあり、なんやかんやで引き受けてしまう。


 ただ、今回の依頼はこれまでのそれとはワケが違うようで――――


「あ、申し遅れました。私、この国の第一王女――テレシア・フォン・オルトレシアと申します。こっちは護衛のルーシー。実はある依頼をお願いしたくて足を運んだのですが……」


 いや、いやいやいやいや。


 俺は頭が真っ白になって固まってしまう。


「ちょっと、どうしたのよ?」

「若? いかがなされた?」

「ご主人様?」


 スライム三人娘が不思議そうに首を傾げてくる中で、俺は頭を抱えた。


「はぁ、俺が夢見たスローライフは一体どこへ……」




 完。

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ようこそ個性豊かな最強美少女スライムが住まう喫茶店へ~勇者パーティーを追放されたエンシェンターの俺がテイムしたスライムが急成長し美少女に。彼女達と共に喫茶店を営みながらスローライフを送りたい~ 水瓶シロン @Ryokusen

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