第28話 激闘ッ!!②

 ミズハとロティリアが激しく刃を交え、金属音が響く。


「アランは勇者パーティーに必要な存在です。何が何でも返していただきますッ!」


 縦に振り下ろされたロティリアの重い一撃を、ミズハが刀で受けて鍔迫り合い。


「返してもらうとは笑止千万っ! 若を切り捨てたのはそなたらの方であろう!」


 ミズハに押し切られ体勢が崩れたロティリアは、さらなる追撃を逃れるため一度大きく間合いを取り直す。


 と、そんな激闘が繰り広げられる隣でも――――


「ん――ッ!!」


「……っ!? 何て言う馬鹿力よッ!?」


 ドガァアアアンッ!! と地面にクレーターが出来る。作ったのは、そのクレーターの中央で青く燃える拳を構えたメアだ。


 フウカがバックステップで回避するのを少しでも遅らせていたら、今頃はぺしゃんこだ。


 しかし、フウカも負けておらず、槍と瞳に赤い炎を滾らせて、槍の切っ先を真っ直ぐメアに向けて構えていた。


「アンタ達にアイツは渡せない。だから、負けられないッ!!」


「……アランはメアと来る。来させてみせる」


 フウカの言葉に、メアは珍しく長文で反応し―――


「燃え尽きなさいッ!!」


「んッ!!」


 幾度も爆音をアンサンブルさせて、派手な戦闘を行っていた。


 しかし、二人だけではない。


 普段大人しいエリンも、勇者パーティーのエルフ魔導士であるセリアと撃ち合っていた。


「風よ――ッ!!」


「【スパーキング・ジャベリン】ッ!!」


 エリンが風のベールを纏った矢を三本同時射出。迎え撃つべくセリアが雷系統攻撃魔法。


 丁度両者の間合いの中間地点で激突、相殺され、風が吹き荒れ電気の残滓が散らばる。


 一見互角に見えるこの戦いだが、魔導士と弓使いとの戦闘には弾数制限という大きな差がある。


 エリンの残りの矢の本数はあと一本なのに対し、セリアの残存魔力はまだまだ。


 単純な打ち合いでは魔導士に分がある。


「最後の一本ですか、仕方ありません」


 エリンは冷静にそう言って最後の矢を引き絞る。


「風よ集え。巻き起これ嵐――」


 エリンを中心に荒々しい風が生まれる。


「眼前の全てを吹き散らせっ!」


 勢いよく放たれた矢は竜巻と化し、地を抉りながらセリア目掛けて突き進む。


「す、凄まじい威力……でもっ、負けるわけにはいかないの!」


 セリアも本気だ。杖の先に幾重にも折り重なった魔法陣が展開される。


「【ジャッジメント・バースト】ッ!!」


 最上級の光系統攻撃魔法。残存魔力を全て消費し撃ち放たれる、超高威力砲撃だ。


 確かにセリアが使用できる魔法の中で、このエリンの攻撃とまともに撃ち合えるのは【ジャッジメント・バースト】くらいだ。


「いや、流石に代償が大きい分【ジャッジメント・バースト】が勝るか……!」


 俺の呟き通り、一瞬エリンの竜巻と拮抗したが、セリアの放った光の奔流はそれを打ち払って俺達の方にまで飛んできた。


「ご主人様っ!」


「任せろッ! 【対魔法障壁】展開!」


 俺とエリンが立っている足場一帯に魔法陣が広がり、外部からの魔法攻撃を遮断する結界が完成する。その直後、【ジャッジメント・バースト】が飛来し結界と衝突。


 ダァアアアンッ!! と激しい轟音を響かせるが、結界内部にいた俺とエリンは無事だった。


「ふぅ、エリンの攻撃で威力が殺されてなかったら防ぎきれなかったな……」


「申し訳ありませんご主人様。あの一撃で仕留められず……」


「いや、エリンはよくやったよ。実際セリアに【ジャッジメント・バースト】まで使わせることができた。これで相手の戦力が一人減ったと思って良い」


「――一人減ったところで、どうだって言うんだぁ?」


「ダリス……」


 こちらを睥睨するような笑みを浮かべるダリスが、両手剣を肩に担いだままゆったりとした足取りでこちらに向かってくる。


「そっちの緑のメイドはもう矢がない。そして、お前は戦えない。ははっ、どうやって俺を相手取る?」


「確かに、俺では逆立ちしてもお前には勝てないだろうな……」


 ダリスの言う通りだ。


 俺はエンシェンター。

 前衛での戦闘が本職の――それも勇者パーティーの両手剣使いと対峙して敵うはずがない。


 その結果は、自身にありったけのバフを付与して戦うという奥の手を使っても変わらないだろう。


「けど、負けるわけにはいかないんだよ」


「ぎゃはは! お前は負ける! 俺がお前の前にこうして立っていることがその証明だ!」


「いいや、俺らは勝つよ。俺個人ではお前に勝てなくても、なら勝てる。だから俺は俺の役割を全うするだけだッ!」


 言い終わるなり俺は、長杖を構え次々に魔法陣を展開していく。


「【フィジカルブースト】【プロテクション】【キャパシティイクスペンション】【ファストアクション】――お前ら、俺がありったけの支援をする! だから全力で勝負を決めろッ!!」


「了解ッ!」

「御意にッ!」

「お任せくださいッ!」


 フウカ、ミズハ、エリンがキレ良く答える。


 俺を信じているのか、その表情には薄っすらと笑みが窺えた。


「勝負を決めるだぁ~? エンシェンターの分際で何ほざいてやがるッ!!」


 怒声を上げるダリスが、両手剣を構えて俺に突進してくる。


 しかし、俺は動かない。


 なぜなら――――


「やらせませんッ!」


「なっ、てめぇ……!」


 ――仲間コイツらが守ってくれると信じているから。


 ガキィン! と甲高い金属音が鳴り響く。


 スカートに下に隠し持っていたナイフで、エリンがダリスの両手剣を打ち払ったのだ。


 普通ならば考えられないが、今エリンには身体能力強化を始めとするいくつものバフがてんこ盛りに掛けられている。ナイフで両手剣の斬撃を弾くといったことも可能になるわけだ。


 そして、一瞬よろけたダリスの隙を俺は見逃さない。


「中級拘束魔法【チェインバインド】ッ!」


 ダリスの四方に小さな魔法陣が即座に展開され、そこから魔法の鎖が飛び出しダリスの四肢と胴体に巻き付く。


「クソがッ! これくらいの拘束で――」


「――上級拘束魔法【グラビティバインド】ッ!」


「ぐうっ……!?」


 誰も勇者パーティーのリーダーを務めている者を一つの拘束魔法で押さえられるとは思っていない。


 しかし、流石に二重の拘束魔法を掛けられたら話が別だ。


 ダリスはその場に片膝を付き、苦しそうに表情を歪めて俺を睨んでくる。


「ちぃ! エンシェンターのくせに……ッ!」


「そう、俺はエンシェンター。一人で戦えないから仲間に戦ってもらわないといけないし、守ってもらわないといけない」


「そうだ! お前みたいなのが足手纏いに――」


「――でもな、ダリス。俺は仲間を強くできる。自分一人の力はたかが知れてるが、信頼できる大切な仲間を後ろから支えられる」


 俺は視線をダリスから外し、もうすぐ戦闘が終わるであろうフウカとミズハの方を見る。


「さっき勝負を決めると言ったが、それは俺の役目じゃない」


 視線の先で、フウカが勢いを大きく増した炎を纏った槍でメアに攻撃を畳み掛ける。


「はぁあああああッ!!」


「……ッ!?」


 フウカの攻撃を前に、メアの防御姿勢が弾かれた。その隙を見逃さず、フウカは槍を横薙ぎに一閃。豪快な赤い炎が、青い炎を飲み込んだ。


 吹っ飛ばされたメアは、一帯焦土となった地面の上で、大の字に倒れる。


 そして、フウカがメアとの勝敗を決したのとほぼ同時――――


「若の命に応えるのが拙の務めッ!」


「け、剣が見えない……っ!?」


 バフの効果で圧倒的剣速を手に入れたミズハが、音すら置き去りにして刀を縦横無尽に振るう。


 その剣速についてこられなくなったロティリアは防戦一方となり、やがてあちこちに浅い切り傷が刻まれていく。


「やられっぱなしではいられませんッ!」


 何とか状況を覆そうとロティリアが数太刀受けるのを覚悟で攻撃に転じるが、その一瞬の隙にミズハの刃が煌めく。


「ここ――ッ!!」


「……っ!?」


 気が付けばミズハの刀の切っ先が、ロティリアの首の僅か数ミリ手前でピタリと制止していた。


 勝敗は決した。


 ロティリアはフッと笑みを溢して、今まさに振り下ろそうとしていた片手剣を手放す。


「……俺達の勝ちだ」

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