第27話 激闘ッ!!①
俺達は王都城壁の外に広がる平原まで来ていた。
街道からも距離があり、派手に暴れても誰にも被害を与えない場所だ。
俺を含めたスライム三人娘と、かつての俺の仲間である勇者パーティー四人が、大きな間合いを保って向かい合っている。
高まる緊張感。
互いの求めるモノを掛けた負けられない戦いが、今始まろうとしていた。
エリンらが勝手に持ち出した賭けではあるものの、こうなってしまっては後に引けない。それに、こうでもしないとダリスは龍の血液を譲ってくれたりはしないだろう。
「一つだけ確認させてくれ。死ぬまでは戦わない――それで良いか?」
「もちろんですアラン。これから行うのは試合であって殺し合いではありません」
ハッキリとロティリアがそう答える。しかし、最後に少し不安そうな表情を浮かべて付け加えた。
「ですが、その……私達は勇者パーティーです。こういう言い方は良くないかもしれませんが、戦力差というものはあると思います。もしかすると一方的な勝負になってしまう場合も……」
「わかってる、ロティリア。心配してくれてありがとうな。けど、勝負は勝負。俺達もそう簡単に負けるつもりはないぞ」
ロティリアの心配ももっともだ。
彼らは今や世界中の冒険者の中でも最前線で戦っているパーティーだ。とても勝負になるとは思えない……正直、ロティリアの本音はそうだろう。
けど、俺はこの勝負の結果は想像できない。
それは、
「いいからさっさと始めようぜぇ~? どうせ結果は見えてるんだ」
ダリスはそう言って背中の両手剣を抜き取り、余裕な態度で肩に担ぐ。
俺は頷き、アイテムボックスから長杖を取り出す。スライム三人娘も臨戦態勢に入った。
互いに何かのきっかけを待つように向き合い静止している。
ヒュウ、と風が通り抜け野草が揺れる。
そして、俺達の緊張の高ぶりを敏感に感じ取った鳥がバサバサッ! と羽音を鳴らし飛び上がったところで――――
「参るッ!!」
最初に動いたのはこちらの陣営――ミズハだ。
一陣の風の如く駆け出し、普通ならば決して刃の届かない間合いで踏み込み、流れるような動作で鯉口を切った。
「荒波は岩礁を穿つ刃とならん――ッ!」
ズバァアアア――と、どこからともなく莫大な水が湧き出て、ミズハが抜刀するに合わせて駆け抜ける。
まるで岩礁に押し寄せる荒波の如き激しさで、勇者パーティー目掛けて洪水が押し寄せる。
一瞬驚きを隠せないでいた勇者パーティーだったが、いち早く平静を取り戻したロティリアが立ち塞がった。
「スキル【戦女神の加護】ッ! 斬り裂け――【フォトン・カリバー】ぁあああッ!!」
【戦女神の加護】で一定時間攻撃スキルの威力上昇効果を付与してからの、【フォトン・カリバー】。
神々しく輝くロティリアの片手剣が振り下ろされ、押し寄せる荒波を縦に両断。ミズハとロティリアの初撃は互いに相殺された。
「ミズハ、避けなさいッ!」
すでに宙高く跳躍していたフウカが、身体を弓のようにしならせて、燃え盛る槍をロティリア目掛けて投擲。
ミズハはバックステップでその場から退く。
「エリン!」
「わかっています。風よ――」
フウカの呼び掛けを受ける前に、既にエリンは矢を引き絞っていた。
シュンッ! と風のベールを纏った矢が撃ち放たれる。
二人の攻撃の標的となったロティリアはすぐさま後ろに引くが、投擲され地面に突き刺さったフウカの槍を中心として吹き出す火炎が、エリンが放った矢が生み出す暴風と掛け合わされて、猛烈な爆炎が吹き荒れた。
咄嗟にセリアが水系統攻撃魔法で爆炎の威力を押さえたのが功を成し、ロティリアは何とか致命的なダメージを負わなかったが、この一連の攻撃で勇者パーティーの表情が変わった。
俺は自身の前に立つ三人に慌てて言った。
「お、お前ら殺す気じゃないだろうな!?」
「何言ってるのよ。アイツらを相手にするには、殺す気で戦って丁度良いくらいでしょ?」
フウカがサラッとそんなことを言ってくるので、俺は頭を押さえた。
まぁ、確かに勇者パーティーを相手取っているのだからそれぐらいの心持ちで良いのかもしれないが、それにしてもさっきから三人の表情がマジだ。マジで
俺が呆れていると、体勢を立て直したロティリアが改めて剣を構えた。
「試合前に貴方達の実力を甘く見ていたことを謝罪します。ですが、ここからは私達も全力で行かせてもらいますので――」
フッと、ロティリアの姿が霞んだ。
そして――――
「――覚悟なさってくださいッ! はぁッ!!」
瞬く間に俺達に接近してきており、右手に持った片手剣を容赦なく振るう。
ガキィイイインッ! と重たい金属音が鳴り響く。
ミズハが刀で迎え撃っていたのだ。
「流石、やりますねっ……!」
「そちらこそ」
カァン、キィン! と幾重にも金属音が打ち鳴らされる。
ロティリアとミズハの一騎打ちが始まった。
しかし、一騎打ちをしなければならないというルールはなく、フウカは横からロティリアを攻撃しようと迫るが――――
「なっ!?」
「……やらせない」
先程のロティリアを上回る速度で駆け付けたメアが、相変わらずの無表情のままフウカの前に立ち塞がる。
メアは拳闘士――自身の両拳を打ち鳴らし、文字通り火を灯して構える。髪の色と同じ青い炎だ。
「まったく……やるしかないって言うなら、やってやろうじゃない!」
フウカも槍に深紅の炎を灯し、メアと向き合って構える。
消えるように動くメア。瞬く間に接近すると、メアは青い炎が灯った拳で重い打撃を一撃一撃の間隔を徐々に短くしながら、加速するように打ち込んでいく。
フウカも負けず、槍を巧みに操り、押し寄せる打撃の嵐を捌きいなしていく。
戦いは徐々に激しさを増していった――――
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