第26話 かつての仲間④

「お、俺を、連れ戻す? それは……勇者パーティーにという意味か?」


 その通りだよっ! とセリアが大きく頷く。同じようにロティリアとメアも頷いていた。


 俺の心臓がドキリと跳ねる。


 俺はまた、コイツらと一緒に勇者パーティーとして旅をすることができるのか?


 いつしか災厄をもたらす魔王を討つべく、強いモンスターと戦い、旅先で宿のないときは野営する。過酷な旅の中にある、仲間との確かな絆と温かな時間。


 そんな光景が脳裏に過り、正直魅力的に感じてしまった。


 わかった。勇者パーティーに戻る――と、そう一言答えれば、俺はその光景を現実のものに出来るのだろう。


 俺は後ろに控えるスライム三人娘に振り向く。


「貴方の好きなようにすれば?」

「うむ。若がどのような選択をなされようとも、拙らはどこまでもお供するぞ」

「ふふっ。私も永久とわにご主人様にお仕えすると決めております」


 フウカ、ミズハ、エリンがそう告げてきた。


 ……ああ、そうか。


 俺が『勇者パーティーに戻る』と即答できない理由は、コイツらなんだ。


 俺は思わず笑いを溢してしまった。


 最初はただ、好奇心からテイムスキルを使ってみたいと思っただけだったんだがな……。


「悪いな――」


 俺は、視線を勇者パーティーの皆に――元仲間である四人に戻して答えた。


「――俺はお前らとは行けない」


「「「「――ッ!?」」」」


 勇者パーティーの全員が――普段表情をあまり動かさないメアまでもが驚きの表情を見せた。


「俺には今コイツらとの生活がある。平和な街の小高い丘の上で喫茶店をやってるんだ。

 まぁ、正直またお前らと旅が出来たらどんなに楽しいだろうかって想像してしまうよ。でも、それでも俺は、コイツらを選ぶんだ」


 そんな言葉に微笑みを浮かべるスライム三人娘らと打って変わって、勇者パーティーの皆は沈黙していた。


 しかし、そんな中、今まで話に加わらなかったダリスが大きくため息を吐いた。


「はぁ~あ。そういうワケだお前ら。アランを連れ戻すのは諦めろ。だが、今後の戦闘面に関しては安心して良い。この龍の血液さえ手に入れば、アランがいなくてもバフ効果を得られるポーションが大量に作れるからなぁ」


 自分で言うのも何だが、やけに俺をあっさり諦めるんだな、ダリスは。


 まぁ、前からダリスにはなぜかあまり良く思われていなかった気がしていたし、つまりはそういうことなのだろう。


 だが、今はそれどころじゃない。


「あ~、ダリス。俺達も龍の血液を買うためにここに来てるんだよ。冗談抜きで文字通りの死活問題だから、出来れば譲ってほしいんだが……」


「んなことできるわけねぇだろ? コレは俺達のポーションの材料にさせてもらうぜ。誰かさんがパーティーに戻ってねぇから、バフを付与する良質なポーションが必要なんだよ」


 ダリスの奴、俺がパーティーに戻るのは反対っぽいのに、こういうときだけ俺が戻ることを拒んだのを掛け合いに出してくるのか……。


 そして何よりいやらしいのが、ここで俺の立場を掛け合いに出すことで、俺をパーティーに戻したい派のセリア、ロティリア、メアが勢い付く。


 案の定、セリアが懇願するような眼差しを向けてきた。


「わ、わかったアラン君。この龍の血液は譲るよ。でも、その代わりお願いだからパーティーに戻ってきて欲しいの!」


「私からもお願いします。アラン、どうか私達のもとへ戻って来てはくれませんか?」


「……」


 ロティリアも頭を下げ、無言ではあるがメアもじーっと俺を見詰めてくる。


「そ、それは――」


「――悪いけど、貴女達にアランは渡さないわ」


 困っていると、フウカが俺の隣に腕を組んで立った。


 そして、ミズハも俺の隣に来て、勇者パーティーの前に堂々と立つ。


しかり。若が拙らとの平穏な日々を望んでくれた以上、若は渡せぬ」


 最後に、「私もお二人と同じ意見です」と言いながら並んだエリンが、話を続ける。


「しかし、龍の血液も渡すわけにいかないのもまた事実です。そこで、提案なのですが、勇者パーティーの皆さん。私達と賭けをしませんか?」


 賭けとは? とロティリアが真剣な表情でエリンに尋ねる。


 エリンは「ふふっ。ほんの簡単な賭けです」と言い、答えた。


「互いに戦う術を持つ者同士……私達が勝ったら、龍の血液を頂きます」


「なるほど……わかりやすくて良いですね。では、私達が勝ったらアランを連れていきますよ?」


「ええ、構いません」


 エリンの確認に、フウカとミズハが答えた。


「はぁ……仕方ないからその賭け乗ってあげるわ?」

「覚悟は出来ているぞ。拙の全霊を賭してお相手いたそう」


「ちょ、お前ら勝手に……」


 確かにスライム三人娘は強い。


 だが、それは相手も同じだ。


 一年足らずで勇者パーティーと呼ばれるにまで成り上がった、正真正銘の実力者達。


 その力は、仲間だった俺が良く知っている。


 この勝負、一体どうなるのか……俺にも想像できない。

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