第25話 かつての仲間③
血液を温存するため、ミラは魔法行使が出来ない。
なので、俺とスライム三人娘は馬車に乗り、約一日半掛けて王都までやって来ていた。
「王都に来るのは久し振りですね~」
「確かにそうだな。喫茶店を見に来たとき以来か」
俺はエリンの言葉に頷きながら、モンスターの素材が売り捌かれているというエリアまでやって来た。
同心円状の花壇の中央に装飾豊かな大きな噴水がある広場。
そこに多くの商人が集まって市場を形成していた。
買い物をしているのは冒険者だけでなく、研究者や王国騎士の人達も見受けられる。
「も、物凄い人の数ね……」
「ですね……。この人込みの中、龍の血液を売りに出している承認を探すのは骨が折れそうです」
フウカとエリンが困ったような表情を浮かべているが、対照的にミズハは市場に興味津々だった。
「色んなものが売られているのだな~! さ、若! 早く行こうではないか!」
「お、おう――って、ちょいちょい引っ張るな!?」
俺はミズハに手を引かれ、賑わう市場の中に入っていき、フウカとエリンも後ろからついてきた――――
◇◆◇
「何だかやけに賑わってるね……?」
王都に到着した勇者パーティー一行。
そのメンバーの一人であるエルフの少女セリアが、目の前で賑わっている市場を前に目をパチクリさせていた。
その隣で相変わらず無口なメアも首を傾げている。
そんな彼女らの疑問に、金髪碧眼の少女騎士ロティリアが答える。
「どうやらモンスター素材が大量に売り捌かれているようですね。希少な素材もあるかもしれませんし、少し見ていきますか?」
ロティリアがパーティーリーダーであるダリスに尋ねる。
すると、ダリスは一瞬乗り気でない表情を見せたものの、ふと何かを思い付いたように口許を手で覆う。
(そうだ、これだけ素材が取り揃えられた市場だ。もしかすると、強力なバフ効果を付与するポーションの生成に必須な、龍の血液も手に入るかもしれねぇ……)
もしソレが手に入り、ポーションを大量に生成することができれば、エンシェンターであるアランをパーティーに連れ戻す必要性を低くすることができる。
(アランは要らねぇと、コイツらに納得させられる材料になるかもな……へへっ)
ダリスはそんな邪念を悟られぬようコホンと一つ咳払いしてから、市場を回ることを承諾する。
三人が何となく売られている商品を眺めていくのに対し、ダリスは龍の血が売られていそうな方へと仲間を誘導しながら探す。
そして――――
◇◆◇
「むむ、若。龍の血液とはアレではないのか?」
「お、おいミズハ! 一人で勝手に行くな」
やはりスライム三人娘の中で一番子供っぽいのはミズハだな、などと思いながら、俺はフウカとエリンを連れて先に入ったミズハの後を追う。
そして、確かに扱っている商品の中に龍の血液がある店の前に立つなり、ミズハは商人に声を掛け――――
「「龍の血液を」」
ミズハと誰か男の声が重なった。
どうやらその男性も俺達同様龍の血液を求めているらしいのだが…………
「すまないねぇ。龍の血液は今在庫が一つしかないんだよ。悪いがお客さん達、どちらが買うのか相談してもらっても良いかい?」
初老の商人の男性が、申し訳なさそうにそう言っている。
俺はフウカとエリンと共にミズハの隣まで来て、同じ商品を求めているであろう男性と話し合うべく、そちらへ視線を向ける。
「えっと、貴方も龍の血液を買いに――って、え? ダリス……?」
「お、お前はっ……アラン!?」
俺の視線の先で、勇者パーティーのリーダーであり元仲間のダリスが大きく目を剥いていた。
俺達の反応に、傍らでスライム三人娘が頭上に疑問符を浮かべて戸惑っている。
そして、そんなところへ新手がやって来た。
「ダリス、どうかしましたか――って、アラン!?」
青い瞳を驚愕の色いっぱいに見開いたのは、片手剣使いの騎士ロティリアだ。その後ろからセリアとメアもやって来て――――
「あ、アラン君っ!」
「ん、アラン……」
「ろ、ロティリアにセリア、それにメアまで……。ま、まぁそりゃダリスがいるんだからお前らもいて当然だが、どうしてここに……?」
正直俺は今、心臓がバクバクと早打ちしていて、変な汗まで出てきている。
だって、俺はコイツらのパーティーから追放された身。最後の別れは酷く呆気なかったし、今こうして再会しても気まずいだけだ。
しかし、そんな俺にセリアが前のめりで答える。
「どうしても何も、今まさにアラン君を探しに来ていたところだよっ!」
「お、俺を……?」
戸惑う俺に、今度はロティリアが口を開いた。
「アラン、まずは謝罪させてください」
ロティリアは胸に手を当て、頭を深く下げながら続ける。
「貴方をあのような酷い形で追放してしまったこと、謝って許してもらえるようなことでないのは重々承知です。その上で聞いていただきたいのですが――」
ロティリアは話した――――
俺を追放したのは本意ではなかったこと。
しかし、勇者パーティーの旅は今後一層危険なものになることが予想され、単騎での戦闘力に欠ける俺が無事でいられる保証はない。そのため、俺を心配したダリスが、俺をパーティーから外すことで俺を守ろうとしていたこと。
では、なぜあんな酷い別れ方になったのかと言うと、優しく促しても俺がパーティーから去ることはないと考え、あえて冷たく接し突き放す手段を取ったそうだ。
「――と、事情はこの通りだが、私達が貴方にした仕打ちは酷く残酷なものでした。本当に申し訳ありません。どうか、この通りです……」
改めて深々と頭を下げるロティリアに倣って、セリアとメアも並んで頭を下げる。
「や、やめてくれ。俺は別に怒ってない。確かに追放されたことはショックだったけど、実際俺の必要性は薄れてきていた。あのまま旅についていっても、どうせ足手纏いに――」
「――そ、そんなことないよ! ううん。ないってわかったの! だから私達、こうしてアラン君を連れ戻しに来たんだよっ?」
そんなセリアの発言に、俺は耳を疑った。
「お、俺を、連れ戻す?」
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