第24話 かつての仲間②

 喫茶店を開業してから、早くも数ヶ月が経過していた。


 俺達はすっかり仕事が板につき、日々問題なく客を迎えることができていた、のだが…………


「マスター頼むよぉ~。うちの畑荒らすモンスター退治してくれよぉ~」


「マスターマスター。今度西に二つ行った先の街に用があるんだけど、護衛頼まれて組んない?」


「……お前がどんな注文でも受け付けているという喫茶店のマスターか。では依頼したい。最近我らダークエルフ族の里近くに邪龍が住み着いたのだ。ぜひこれを討伐していただきたい」


 ……等々。


 セルティエの街の人だけに飽き足らず、他の街や辺境の里、種族問わず様々なを頂くことが増えてきてしまった。


 最初は少し手伝うくらい良いかといった気持ちだったのだが、一体なぜここまでこの喫茶店の噂が広まってしまったのか……。


「はぁ、のんびり喫茶店営業しながらのスローライフはどこへやら……」


 客足が引いた夕方、俺はカウンター席に頬杖をついて座ってため息を吐く。


 そんなところへ、カランカラン扉が開けられベルが鳴る。


 真っ先にエリンが接客へ向かった。


「いらっしゃいませ――って、ルミナさんじゃないですか~」


「あ、エリンちゃん! こんにちは」


 そんな声がしたので振り返ってみると、確かにそこにはルミナの姿があった。


「あれ、ルミナ。まだギルドの仕事終わる時間じゃないだろ? どうした?」


「あ、先輩。依頼を持ってきました!」


「『依頼を持ってきました!』じゃないんだよ!? あのな、ここは喫茶店だぞ? 依頼じゃなくて注文する場なの。それに俺はもう冒険者じゃ――」


「――そんなこと言って、なんだかんだ色んな依頼受けてるじゃないですか」


「ギルドからは受けてない。あくまで客からの個人的な依頼だ」


「では、今回のは私からの個人的な依頼ということでっ!」


「ったく、お前は……」


 俺はやれやれと後ろ頭を掻く。


「でも、本当に個人的な依頼なんです。と言っても、正確には私ではなく支部長からのですが……」


「ん、ミラの?」


 はい、と頷いてルミナが続ける。


「ほら、支部長って吸血鬼ですから生きていくうえで血液の摂取が必要じゃないですか」


「ああ」


「何でも支部長は人から吸血するのは好きではないらしく、普段は希少な龍の血液をお酒で何倍にも希釈し量を増やしたものを飲んでいるそうなんです。

 ですが、その龍の血液のストックが切れてしまったらしく早急に入手しなければならないそうなんです」


「それで、俺達に龍の血を仕入れて来いと? 今からドラゴン討伐か? 無茶だろ」


 俺が半目を剥けると、ルミナは「そんなワケないじゃないですかっ」とツッコミを入れてくる。


「今王都で大量にモンスター素材が売り捌かれているらしくて、龍の血もそこにあるはずなんです。なので、先輩達には王都に行ってもらい、龍の血を手に入れてきて貰いたいんです」


「なるほどな……」


 確かにこれまでも何度か個人的な依頼を引き受けてはきたし、何よりミラは俺にとっての恩人だ。


 別に俺に断る理由はないが……。


 スライム三人娘はどうなのだろうかと視線を向けてみると、フウカが肩を竦めながら答えた。


「別に良いんじゃない? 受けても」


「うむ。前に王都まで送って行ってもらった恩義もある。ここで返しておくべきだろう」


 ミズハもそう頷いて。


「私は、ご主人様の意思に従うのみですから」


 エリンはそう微笑んだ。


「なら、決まりだな」


 俺はルミナへと視線を戻す。


「その依頼引き受けることにするよ」


「流石先輩ですっ!」


 ではよろしくお願いしますね、とルミナは言い残し、ギルドカウンターの業務に戻るためこの喫茶店を後にした。


 さて、王都に行きますか。

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