第5話

 山には積雪が残るが暦の上ではもう春で、三寒四温を繰り返し少しずつ暖かさを増している。

 草花や小動物も目覚め春らしさを迎えているが、まだコートの必要な日も多々あって、先週は西日本一帯で積もる程に雪が降ったりもした。

 普段降らないかざりの地元も、もちろん雪が降ってかなり大変だったので、四月になって改めて積もるのは勘弁して貰いたい。

 しかも九州一帯でも雪が降り、そのため今年は近年稀にみる大雪だとニュースで今も繰り返し報道され異常気象だとされている。

 原因は地球の温暖化だ何だとコメンテーターが解説していた。

 そんなおかしな春だが、多くの人々が新生活を始める為、ここ東京へとやって来る毎年の様子に特に変わりはない。

 そんな大勢の中の一人が文だった。

 景色が街中へと入り高い建物が増えた頃、車内に案内が流れ、あと僅かで東京駅へ着くと知らせてきた。

「えっ、もう着くの?!ヤバイッ!」

 それを聞いた文はのんびりから一転、大慌てで荷物を纏め始め、またしても隣から迷惑そうな視線を受けた。

 そうこうしている内に新幹線は駅へと到着し、乗客が大荷物を抱えて一斉にゾロゾロと降りて行く。

 なんとか荷物を纏めコートを羽織った文も大きく重たいスーツケースを引きながら降車する。

 急ぎの乗客により後ろから早くしろ!という圧力を掛けられ慌てた結果、車両とホームの僅かな隙間にキャリーケースのキャスターを引っ掻け立ち往生。

 その為、後ろで待っている中年男性に思いきり「チッ!」と舌打ちされてしまった。

 幸先さいさきよろしくないこと極まりない。

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