第六話 アルモリカ王国の手記より――侵略
嘗て、人間と人魚は平和に暮らしていた時代があった。
人魚族の国、アルモリカ王国――
海の近くにある王国だ。
鮮やかな青い空と紺碧の海。
白壁で青い屋根を持つ建物が特徴だ。
アルモリカ王国は資源の宝庫で、必要な物質の大半を補うことができた。
南国特有の暖かい気候に恵まれていた。
作物も充分に採れ、食糧に不自由することがなかった。
そこに住む人魚達は人の姿もとれる。性格も温和な者が多かった。
彼等は、陸の上で生活する時は二本の足を持つ人間の姿となり、水中では二本の足をひれに変え、自由に泳ぎ回っていた。
朗らかな雰囲気とあふれる笑顔。
みんな楽しい日々を過ごしていた。
あの日が来るまでは……――
⚔ ⚔ ⚔
アルモリカ王国から北の方角にカンペルロ王国がある。
それは人間達が住む王国の一つで、他国と友好的な外交を重んじており、アルモリカ王国も友好条約を結んだ国の一つであった。
その王が急に謎の死を遂げた後、日を待たずして現国王が即位した。
彼は利用すべきものは利用しつくし、甘い蜜を吸い尽くした後は容赦なく投げ捨てた。今まで友好関係を結んでいた国とも、利害が一致する国以外は属国として手中におさめていったのだ。
カンペルロ人とアルモリカの人魚族との間にも、いつの日の頃からか諍いが生じ、その溝は深くなる一方だった。
「人魚は人間と似た外見をしているが、人間にあらず。所詮は獣と同じ。彼等は人に所有されるべきである」
と王からお触書が出た為、カンペルロ人は次第に人魚を虐げるようになったのだ。
愛玩動物や奴隷のように我々を売買し、使役する。
今まで対等だった扱いが、売物同然レベルに落とされてしまった。
たまったものではない。
カンペルロ人に見つかっては命が幾らあっても足りぬと、我々人魚族はやがて人間と接点を持たぬように、且つ、自国から出ないようになった。
距離を置いたならば、友好条約決裂の意ありと、それを大義名分として、カンペルロ王国現王は兵を指揮した。
そして宣戦布告することなく、アルモリカ王国を急襲したのだ。
彼等は我らが王と王妃を殺し、王子を始めとするその他人魚達を無理やり連行していった。民衆の人魚達は奴隷商人へと引き渡され、売られてゆく。アルモリカ王国はあっという間にカンペルロ王国によって侵略されてしまった。
連れ去られた人魚達は両腕に枷をつけられ、罪人のように牢へと繋がれた。たまに招集されたと思いきや、終日凌辱や暴行の限りを受け、無理矢理落涙を促されたのだ。
――人魚の涙は真珠を始め数々の宝石へと変わる――
それをもとでに国内の運営資金とする為、我々は強引に泣かされていたのだ。
悲しみの涙。
怒りの涙。
屈辱の涙。
怨嗟の涙。
我々の涙は床に落ちては瞬時に結晶化し、得も言われぬ輝きを持つ美しい宝石へと姿を変えた。
舌を噛み自殺を図ろうとしても猿ぐつわを噛まされている為死ぬことも出来ず、逃げ出そうにも枷によって行動範囲は限られ、脱出すら出来ない。我々にとって毎日が生き地獄そのものだった。食事も満足に与えられず、牢獄内はうめき声で常に満ち溢れており、生きた心地はしなかった。
人間によって捕らえられた人魚達はまるで荷物のように次々と送られてくる。
そして弱りきった者は一人、また一人と命を落としていった。
死んだ仲間達は集められ、油をとって蝋燭や灯りの原料とされた。彼等の油は低温で燃焼し、一滴でも数日間燃え続けるとも言われている為だ。
――このままだと我が国は本当に殲滅させられてしまう。
十年前に滅亡させられた、某王国の二の舞いは避けたい。
だが、拘束された身ではどうすることも出来ない。
誰か、誰か我らにご加護を……!!
我らは絶望の日々を送っていた。
ただ一人、第一王子だけは別室に幽閉されていた。
王家の血を引く彼の持つ力は強大だ。
幾ら枷をつけられようと、力を完全に封じ込められることはないだろう。
彼さえ無事であれば絶滅を避けられる。
何とかして彼だけでも外へ出せないか。
それだけが、我らの望みだった。
⚔ ⚔ ⚔
――そして後日。
王子が人知れず脱出し、牢獄内にその情報が飛び交うと、我らは生きる気力を何とか持ち直すことが出来た。
王子が我々を助けに戻って来て下さる、その日を夢見て……――
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