第3話

「お久しぶりですね、勇者さん」

 いつかのベテランゴブリンさんは俺たちを覚えていた。

「もう来ないかと思いましたよ」

「あのときの俺たちは弱かったんです。でも、今は強くなりました」

「頼もしいですね。以前の場所に連れて行きますね」

 ゴブリンさんに連れて行かれて、俺とフランクは忌まわしき魔界の森林へと足を踏み入れた。

 記憶を頼りに身長ほどある草木を魔法で吹き飛ばし、前へと進む。そして、白骨を見つけた。

「赤い服に、ライオンのシールを貼ったショットガンを持ってるってことは、ボーリーだな」

 コウモリ型の魔物に食われた仲間だ。しかし、上半身はない。ショットガンの銃身とともに食われたのだ。追いはぎにも遭い、時計や財布など金目のものはない。俺たちはボーリーの銃と空っぽの鞄を持ち帰ることにした。

 先に進むと、フランクが鼻息荒く言った。

「ルーカス、あいつだ! 大蛇だ!」

 卵がある巣を守るよう眠る三つ首の大蛇がいた。そのそばにリーダーとその彼女、二体の白骨がある。

 フランクが足音を立てず、ゆっくりと白骨に近づく。遺品だけ持ち帰るためだ。戦っても勝てない。靴やペンダント、小さな骨を袋に入れていく。なかなかの盗みスキルだぞ、フランク。

 しかし、思わぬ来客がやってくる。

「お前ら、そこで何してんだ!」

 有名な魔術師、ゴードンとその仲間たちだ。俺たちを怒鳴りつけた。

「大蛇は俺たちの獲物だ。立ち去らねーと、お前らもろとも殺して」

 俺は魔法杖を掲げて唱えた。

《スモーキングホワイト》

 魔法石が白く輝き、白煙に変貌していく。

「フランク、逃げるぞ!」

「おっしゃ! 特訓の成果見せてやるぜ!」

 フランクも黒い煙を出す。白黒の煙が周囲を覆う。俺たちは逃げた。逃げて逃げて逃げまくった。途中、ゴードンたちの悲鳴が聞こえたが、どうでもよかった。

 森林を駆け走り、ゴブリンさんの村まで一気に逃げた。

「見たか! これが俺たちのやり方だ!」

 フルマラソンも何のその、俺たちは強靱なスタミナと素早い脚力を手に入れた。そして、遺族に遺品を届けて報酬を得た。

 10万G、工事現場の5日分だ。上出来だ。

 俺たちはその日、祝杯をあげた。

 ビジネスの成功を確信したからだ。

 酔っぱらったフランクがいう、

「明日、ゴードンの両親に営業しようぜ。あなたの息子さんの遺品を届けますってさ」

「ああ、そうしよう!」

 ビールジョッキを鳴らし、一気に飲み干した。格別だった。

 こうして俺とフランクは葬式会社もかねて新たなビジネス、株式会社遺品デリバリーズを設立したのだった。

 最初は苦労したが、すぐにビジネスは軌道にのった。今では俺の両親が会社に入って仕事をしている。

 そして、みんなにこう言うんだ、

 「自慢の息子だ」とさ。

 

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逃げた俺たちにできることは、遺品を届けることだ。 だいふく丸 @daifuku0

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