第334話 戦の無い世に向けて
伊達実元による米沢城制圧と伊達晴宗の幽閉の報告は、軒猿衆によりすぐさま大阪城にもたらされた。
軒猿衆からの書状に目を通す上杉晴景。
「そうか、伊達晴宗は幽閉され稙宗の三男である伊達実元が米沢城を掌握したか。流石は、伊達稙宗と言ったところか」
「晴景様。伊達稙宗の指示でしょうか。ならば奥州平定は」
「長慶。これだけ速やかに片付けて見せたのだ。約束は守らねばなるまい。大阪城に出向いてくる前から、かなり入念に準備をしてきたのであろう。奥州の大名は全て我が子と豪語するだけはある。伊達実元が伊達晴宗の抵抗を一切できぬようにして制圧した。米沢城内は全て実元の味方ばかりだったそうだ」
上杉晴景は、三好長慶に答えていた。
「ここまで密かに手を回すとは、晴景様が伊達稙宗殿を奥州の覇者と呼ばれただけはありますな。まさに策士」
「伊達晴宗を生け取りにしたのだ。約束通り伊達晴宗は比叡山に幽閉。領地は3分の1に減らした上で、伊達本家を存続させることになる」
「取り上げた領地はどうします。伊達稙宗、伊達実元に何らかの褒美が必要になるのでは」
「伊達稙宗は、晴宗を助命して比叡山に幽閉することが褒美であろう。本来なら伊達晴宗の命は無いものだ。だが、その陰の働きに対して多少は与えねばなるまい。取り上げた領地の内2万石を伊達稙宗に与える。さらに金500両を与える。残りの取り上げた領地は伊達実元に任せる。伊達晴宗の後継者に関しては伊達稙宗と伊達実元を後見人として政の指示を受けさせよ。もしも幕府に対して逆らうそぶりあらば直ちに廃嫡することとする」
「承知いたしました」
「これで一応は奥州は決着か」
「残る高野山からも返事が来ております。間も無く幕府の指示を受け入れそうです」
「そうか、ならばようやく平定が終わることになるな。次は戦のできぬようにする段階だ」
「戦のできぬようにですか」
「定期的に各大名家当主は大阪城の城下に住まわせる」
「城下にですか」
「城下で大名同士が顔を合わせ、いつでも話ができることが重要だ。お互いの人となりを知ることで余計な衝突を減らすことにも繋がる。上洛時の行列の人数や様式も定める」
「上洛時の人数と様式もですか」
「大名が上洛時に街道の辻々で銭を使うことになり、街道の発展にも繋がる。具体的な部分は幕府の奉公衆に任せることにする」
「承知いたしました」
上杉晴景は大阪城内の将軍足利義輝の下を訪れていた。
「上様。ようやく奥州の平定が終わりました。伊達晴宗は比叡山に幽閉。伊達本家の領地は三分の一に減らし、晴宗の子が伊達本家を継ぎますが、後見人として幕府に協力した伊達稙宗と伊達実元をあて監視をさせます。取り上げた領地の内2万石を伊達稙宗。残りを伊達実元に与えます」
「承知した。晴景、ご苦労であった。だが、まだ隠居はしないでくれよ」
「そろそろ他のものに任せるときではありませぬか」
「今のお主の存在はあまりにも大きい。幕府の屋台骨だ。その存在を失うことはとても恐ろしいのだ」
「上様。すぐとは申しませぬが、いつの日にかその時は来ます。今からそのための政策をしていかねばなりませぬ」
「そのためとは」
「幕府管領職が強大な力を振るうのは、この晴景で最後になされませ。これより先は管領職は名誉職として権限を持たせずに管領の下に4〜5名の者達を置き、その者達にそれぞれ責任を与え合議制で決定をさせるようになさいませ。それでも決められぬ時に管領と上様が合議に加わり決定をする形が良いでしょう」
「合議制か」
「はい、徐々にそのように移行するのが良いでしょう。それと幕府に反抗的であった大名が多かったですから、戦ができぬように懐を常に空にさせるようにさせましょう」
「懐を空にさせるとは」
「まず、各大名の当主は定期的に大阪城下に住まわせる。できれば1年おきぐらいでしょうか。次に幕府による普請工事を行い、そこに各大名達に持ち出しで工事をさせる」
「普請工事か」
「河川工事・水路・寺社の改築でもよろしいでしょう。工事をすれはそれはやがて大きな利を生み出しますから、無駄ではありません。それと各国境を確定させ、それを守らせる。勝手に侵略すれば幕府軍で討伐することを明文化する。一番大事なことは、これからの時代に合わせた法を定める必要がございます。武家・公家・商人・農民に合わせたことを盛り込みましょう。そのために、有能な学僧や有能な者を集めて作らせましょう」
「戦の無い世に合わせた政策を行うのだな」
「そうです。それで全て終わります」
「分かった。すぐに取り掛らせよう」
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