第332話 策士伊達稙宗

大阪城天守で将軍足利義輝と管領上杉晴景は、走るように出ていく中野宗時を見ていた。

「晴景。流石に5日は短いのではないか」

「あのくらいがちょうど良いかと思います。完全に我らを舐め切っていますから、脅しの意味を込めて短めで良いのです。まあ、死ぬ気で急げばギリギリ帰る事ができるかもしれません」

「軍勢の準備はどうなっているのだ」

「我が同盟相手である北の覇者安東家、庄内の最上家、我ら上杉家、北関東の各大名はいつでも動けます。そこに東海の各大名が加わる布陣となります」

「晴景はどうする」

「畿内勢を率いて向かいたいと考えております」

そこに三好長慶は天守に入ってきた。

「上様、晴景様。伊達稙宗殿がお話ししたい事があるそうで、御目通りを願っております」

「伊達稙宗・・晴宗の助命であろうな。晴景どうする」

「上様の言われる通りおそらく助命でしょう。ですが、まずは話を聞きましょう」

「そうだな。ならば、伊達稙宗をここへ」

しばらく待つと伊達稙宗が次男で大崎家当主の大崎義宣を連れて入ってきた。

二人は部屋の中央付近で座る。

上座中央に将軍足利義輝、手前脇に管領上杉晴景が座る。

「伊達稙宗殿。儂に話があると聞いたが、どの様な話だ」

将軍足利義輝は、よく通る声で稙宗に問いかける。

「此度の奥州仕置きは、まず我ら奥州勢にお任せ頂きたく」

「奥州勢だけで行うだと、晴宗の助命では無いのか」

晴宗の助命では無く自分たちで討つと言い出してきたため、将軍足利義輝と管領上杉晴景は驚いていた。

「奥州の大名は皆我が子。身内の恥は身内が始末をつけたいと存じます」

「できるのか、稙宗殿は隠居させられた身。言うの失礼かもしれんが、伊達家に影響力はあるまい」

「伊達家で我らに同心するものもおり問題ございません。それに先ほど奥州の者たちと相談いたしました。上様と管領様がお認めいただければ、この稙宗が大将となり奥州大名を指揮して此度の騒動の始末をつけたく存じます」

「自らの手で晴宗を討つと言うのか」

「奥州の各大名は、此度の騒動で他国の奥州以外の手を借りるのは恥であると考えております」

伊達稙宗は言外に奥州の地に幕府軍を入れたく無いと言っているのである。

つまり自分たち奥州の者たちで、方を付けるから手出しするなと言っているのだ。

「できるのか」

「我らが不甲斐ないとご判断されれば、幕府軍が動かれるのは仕方ないことかと思いますが、まずは我らにお任せを」

「晴景。どうする」

晴景はしばらく伊達稙宗と大崎義宣を見つめながら考えていた。

おそらくしっかり計算を立てた上で申し出ているのだろう。

伊達稙宗の表情からは、不安や恐れを感じさせない。

それどころか自信さえ感じさせる。

この状況で申し出てくるということは、伊達家内部にかなりの数の協力者がいるという意味なのか。

もしかしたら、上洛する前に伊達家に計略を仕掛けてきたのかもしれない。

「ならば、望みはなんだ。晴宗を討ったあと何を望む」

「伊達家の領地を減らすのは仕方なきことと存じますが、その代わり伊達家を残し他のものに継がせることをお許しいただきたく」

「幕府軍が動けば、伊達家は消滅する。奥州勢であれば伊達家を残せると考えたか」

「何卒お聞き届けいただきたく」

「伊達を残すなら領地は三分の一に減らすこととなる。もし、戦が始まる前に晴宗が隠居と出家を申し出たら、領地は三分の一にして、その身柄は比叡山に預けることとする。上様、これでいかがでしょう」

「それでよかろう。それで誰を伊達の後継者にするつもりだ」

「上様。戦になる場合もございます。その時生き残っている直系のものから決めることになるかと思います」

「伊達の直系から選ぶか、仕方あるまい。ならば奥州勢で見事治めて見せよ。無理と判断したらすぐさま幕府軍を送り込むことになるぞ」

「分かりました。必ずや治めて見せましょう」

それだけ言うと、伊達稙宗と大崎義宣は大阪城を後にした。

「晴景。伊達稙宗をどう見る」

将軍足利義輝は管領上杉晴景に問いかける。

「おそらく、上洛前に策を仕込んできたのでしょう。戦をすることなく終わるかもしれません」

「なるほど、奥州の覇者は健在ということか」

「なかなか、強かな御仁です。まさに奥州に伊達稙宗ありといったところでしょうか」

戦もせずに方がつくなら問題なかろうと考える二人であった。

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