第330話 伊達稙宗上洛

摂津国大阪城には、奥州から大名達が上洛してきていた。

会津の蘆名盛氏、岩瀬郡の二階堂照行、大崎郡を治めている元奥州探題大崎家の大崎義宣。

そして、大崎義宣とともに意外な人物が上洛してきた。

「奥州の伊達稙宗と申します」

見た目には、枯れた老人のように見えながらその目には、奥州の覇者であった頃を彷彿とさせる力強さがあった。

大崎家当主大崎義宣は伊達稙宗の次男であり、大崎家の養子として送り込まれ大崎家を乗っ取っていた。

奥州のほぼ全ての大名は稙宗の息子が養子として入っているか、娘や血縁者が正室か側室として入っていた。つまり、奥州の大名はほぼ全てが稙宗にとっては、実の息子または義理の息子になるのであった。

つまり、奥州の大名達からしたら伊達稙宗は、実の父親、または義理の父親になる。

「幕府管領上杉晴景である」

「ぜひ、一度は管領様にお会いしたいと思っておりました。本日その夢が叶いまして嬉しく思っております」

「わしも一度は奥州の覇者と呼ばれた伊達稙宗殿には会ってみたいと思っていた」

「このような老人にそのように言っていただけましてありがたく思います」

「そういえば、昔伊達家とは庄内で衝突しかけたことがあったな」

「随分と昔でございますな、あの時は管領様の見事な采配に感嘆の声を上げたことをよく覚えております」

「あの時は矛を交えずに済んだな」

「管領様と戦わず良かったと思っております」

「そうか。ところで、紀州平定時の紀州に奥州訛りのものが多数いたと報告があった。さらに六角家に奥州から書状が届いていたそうだ。まあ、書状は既に燃やされてしまったそうだが、何か知らぬか」

上杉晴景の言葉にこの場にいる奥州の大名達の顔に緊張感が走る。

そして視線は伊達稙宗に向けられる。

一同が伊達稙宗がなんと答えるのか一言も聞き漏らすまいとしていた。

「数年前に実の倅に無理やり隠居させられ、城に押し込められたただの爺いでございます。既に政からは離れいるため、政の情報が入ってきておりませぬ」

「何も情報はないというのか」

「勝手な思い込みを含めた推測でしかお答えできませぬ、間違っているかもしれません。それでもよろしければ」

「かまわんよ。奥州の覇者と呼ばれた男の意見を聞きたい」

伊達稙宗は口元に微かな笑みを見せた。

「承知いたしました。何者がこの策の絵図を考えたかは知りませぬが、自ら命を張らずに小手先の手段で物事をなそうとした口先だけの者でしょうな」

「ほぉ〜。口先だけの者か」

「はい、自らは安全な場所で高みの見物を決め込んでいたのしょうな。まあ、そのようなものは大概小心者と決まっております」

奥州の大名達は、上杉晴景と伊達稙宗のやりとりを固唾を飲んで見ていた。この会話の結果次第では奥州全体が戦果に包まれることになるからである。

「小心者か」

「はい、小心者にございます。小心者のやることは、分別を超えた大盤振る舞いの約束をして、人を騙して背後から斬りかかることぐらいでしょうな。さらに、逆臣に担がれ家を滅ぼすのが関の山でしょうな」

奥州の大名達の顔が厳しいものになってきていた。

伊達稙宗が言っていることが、伊達晴宗を指していることが分かってきたからである。

「なるほど、逆臣に担がれるか・・・」

「義父殿。晴宗をお嫌いなのはわかりますが・・・」

伊達晴宗の肩を持つつもりは無いが、奥州に幕府軍を入れたくない蘆名盛氏は思わず声をかけた。

「盛氏殿。心配されるは分かるが、やつも一端の大名。自分のことは自分で始末をつけるべきであろう。それと、儂は晴宗の名は一言も言っておらんぞ」

「ウッ・・・そ・それは・・」

「稙宗殿。蘆名殿。それ以上言わずとも良い。全ては分かっている。伊達晴宗をあと5日待とう。5日以内に上洛して申し開きがない時は、幕府軍によって伊達領を制圧する。手を貸す大名がいたら同罪とする。既に幕府軍15万の準備ができている」

「承知いたしました」

伊達稙宗は、顔色も変えずに晴景の言葉に同意した。

「義父殿!よろしいのか。義宣殿いいのか!」

「儂は、大崎義宣。儂の家は大崎家。伊達は兄が継いだのだ。兄の責任でかたをつけるべきだ」

「儂は既に隠居させられた身だ」

「身からでた錆か・・・」

蘆名盛氏の呟きが部屋の中に響き渡った。

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