第322話 不穏な風
将軍足利義輝と幕府管領上杉晴景は、1日も早く戦のない世にするために紀州平定を決断。
諸大名に軍勢を率いて参陣するように指示を出していた。
紀州の東側からは、上杉景虎が総大将となり、今川家、松平家、織田家、北畠家を率いて総勢6万
の軍勢。
摂津・河内方面からは、幕府管領上杉晴景が総大将となり、三好家をはじめとする畿内大名総勢7万の軍勢を率いることになる。
紀州北部大和国からは、松永久秀率いる軍勢2万となっていた。
松永率いる軍勢は、山岳戦が主たる戦となるため、特に山岳戦を得意とするもの達で固めているため、兵の数は少なくなっている。
上杉晴景、上杉景虎、それぞれの軍勢は海沿いを先に制圧して、その後に紀州山間部の制圧を考えていた。
上杉晴景は、紀州に詳しい家臣である雑賀衆を束ねる鈴木孫一こと雑賀孫一を呼んでいた。
「孫一。紀州の各国衆の動きはどうだ」
「我ら雑賀衆はどうにかまとめることができましたが、他の国衆の動きが全く読めません」
「読めないとは」
「各国衆に書状を送っても完全に無視されております。不気味なまでに反応が無いのです。この様なことは初めてでございます」
「どこからも返答がないのか」
「はい、全く無い状態。それがいっそう不気味でございます。普通なら従うか、従わぬかなど、何らかの反応があるはず」
「意図的に無視を決め込んでいるのか・・何か企んでいると言うことだな」
「紀州の国衆の反応を見るに、おそらくそうかと思います。しかし、裏で誰が糸を引いているかは分かりませぬ。さらに一体何を企んでいるのかも全く分からぬ状態でございます」
「用心しておくことが必要だな」
「これだけの軍勢でございますから心配はいらぬとは思いますが」
「数だけで全てが決まる訳ではない。何事も用心は必要だ。引き続き雑賀衆達の伝を使って紀州の情報を集めてくれ」
「承知いたしました」
紀州での戦いが目前に迫っていた。
六角家は幕府から摂津・河内から紀州に向かう軍勢の後詰めを命じられていた。
幕府には、承禎(六角義賢)が軍勢を率いて参陣すると伝えている。
承禎は自らを大将として1万5千を率いて、近江国観音寺城を出発して大阪に向かった。
六角の軍勢はそのまま大阪に向かうのではなく、京の北部を通過していた。
大阪に向かう途中、少し回り道をして、京の都最高峰の霊山である愛宕山の愛宕神社に寄ることにしたのであった。
火の神を祀る神社であり、愛宕権現とも言われている。
そこに祀られているのは、神仏習合した仏である勝軍地蔵菩薩であった。武具甲冑に身を固め馬に乗る勇ましい姿をしているとされる戦の神であり、戦勝を司る仏であった。
戦を司り、戦勝を司る為、多くの武将達に崇敬を集めていた。
承禎は、愛宕山山頂を目指してひたすら表参道を進んでいる。
標高924mの頂上を目指し、ひたすら頂上を目指し登る険しい道。
承禎が無言でひたすら登る先を突如猪が現れた。
一行は、一瞬猪がこちらに向かって来るかと思い、緊張感に包まれた。
猪は、しばらく承禎たちを見つめていたが、やがて山中へと消えて行った。
「殿。猪がこちらに来ずに助かりました」
「フッ・・猪か、なかなか縁起が良いではないか」
「殿。猪が縁起がよいのでございますか」
「ここは猪と縁がある社だ。それゆえ縁起がいいと言ったのだ」
「猪と縁があるのですか」
「猪の伝説もあるらしい。それに御所の北西の‘’亥‘’の方位を守っておられるのが、この愛宕神社だ」
一行は息を切らせながらようやく頂上にある愛宕神社に到着した。
ここが愛宕神社の総本社である。
手水舎で口と手を清め拝殿へと入っていく。
承禎の一行は、愛宕神社で戦勝祈願、心願成就の祈祷を受けた。
そこで承禎は御神籤を引く。
「クッ・・」
‘’凶‘’と書かれていた。
引いた御神籤を破り捨て、再び御神籤を引く。
無言のまま引いた御神籤を見ているが、破り捨て再び御神籤を引く。
承禎は何かに取り憑かれたように、何かに追い詰められるような表情をして、何度も何度も御神籤を引き直す。
六回の御神籤はことごとく‘’凶‘’であった。
そして七回目に‘’大吉‘’を引いた。
少しホッとした表情をして承禎たちは、愛宕神社を後にするのであった。
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