第320話 大阪城茶会
大阪城で将軍自らが茶を点て、大名たちに振る舞う茶会が始まろうとしていた。
大阪に屋敷を構えた大名達を順に呼び茶を振る舞っていくのだ。
現在、大阪に屋敷を構えている大名は20家程。
九州や四国などの大名は作り始めたっばかり。まだ、それぞれの家の当主はやって来てはいなかった。
皆、将軍家の心象をよくするために屋敷を急いで作っていた。
この日のために大阪城内には茶室を作っていた。
豊臣秀吉のような豪勢な黄金の茶室ではなく、侘び寂びを現した茶室。
大阪城内に作られた茶室は、大徳寺90世である
本来なら2畳余りの広さの茶室ではあるが、あえてそれよりも少し広い作りとなっていた。
派手さは無いが将軍の茶室に相応しい気品に溢れた作りを心がけて作られている。
床の間にかけられた掛け軸には‘’一期一会‘’と書かれている。
茶室の中には、亭主(茶を点てる人)として将軍足利義輝。
亭主を補佐するものとして大林宗套。
正客として織田信長、松平広忠、今川義元、茶湯を締めくくる最後の末客として上杉晴景がいた。
上杉晴景の考えで織田家・松平家・今川家を一緒に呼んでいた。
静寂さの中で聞こえてくるのは、湯の沸く音、茶を点てる音だけが聞こえてくる。
商人達が活発な商いをする街中の喧騒と真逆のゆっくりとした静寂の時間。
その中で茶が振る舞われていく。
皆、将軍から直接茶を点ててもらうことは、初めての出来事である。
特に、織田信長、松平広忠は緊張しているようだ。
少し動きがぎこちない様に見えるながらも、将軍の点てる茶に感動しているように見える。
今川義元は将軍家の一門に連なるためか余裕を感じさせた。
「皆、よく来てくれた。織田家・松平家・今川家の当主が顔を合わせることなど初めてのことであろう。これが普通になる時代を築きたいと儂は思っている」
「上様、戦のない世の中になるということでございますか」
「信長殿。その通りだ。儂と晴景はそのために力を尽くしてきた。皆にも力を貸してほしいと思っている。全ての大名家の当主がごく普通に集まり、茶湯を楽しむことができる様にしたいのだ」
将軍足利義輝は、遠くを見るような目で自らの思いを皆に話している。
「承知いたしました。この信長。上様のために力を尽くすことをお約束いたします」
「この広忠も同じく」
「この義元。将軍家に連なるものであり、管領上杉晴景殿とは友であり、同盟者であります。二人のために力を尽くしましょう」
満足そうに頷く将軍足利義輝。
「幕府管領上杉晴景でございます。上様より幕府の政を任されております。戦の無い世を作るた御三方のお力をお借りしたいと思っております」
「晴景殿。水くさいぞ。友なら遠慮せず儂を頼れ、お主には返し切れぬほどの借りがある」
「義元殿。お主には助けてもらっているよ。儂が迷う時のお主の言葉は、いつも千金の重みがある」
「フフフ・・そう言ってくれると話し相手になった甲斐があるというものだ。お主はなんでも自分で抱え込む癖がある。もっと周りを頼れ、景虎殿でも、儂でもいい。もっと人を頼れ。友を頼ってくれ、背負った荷物を少しだけでも人に分けろ。儂はお主が呼べば夜を徹して駆けてでも駆けつけよう」
今川義元の言葉に織田信長も松平広忠も少し驚いた顔をしている。
「管領殿、この信長も力を貸しますぞ」
「この広忠もお主には返し切れぬ借りがある。いつでも頼ってくだされ」
上杉晴景は、深く深く頭を下げるのであった。
「なるほどなるほど・・実るほど頭の下がる・・・ですか。まさに、謙虚にして驕らず」
大林宗套は目を細めながら満足そうに頷いていた。
「大林宗套殿」
「晴景様、なんでしょう」
「まだまだ弟子入りは先になりそうです」
「ハハハハ・・・あなた様は、大空を行く雲の如く、流れる水の如く、淀む事なく自然に物事をなす行雲流水の如きお方。ますます自由にお生きなされませ」
その言葉にいっそう頭を下げるのであった。
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