第317話 誘い込み

織田信清は信長の留守を狙い、3千の兵を率いて那古野城を強襲していた。

那古野城の留守を預かる守備兵は、ごくわずかな人数と聞いていおり、簡単に攻め落とせると見ていたにも関わらず、予想に反して堅固な守りを固めていたため、攻めあぐねていた。

織田信清は、本陣に主な家臣を集め軍議を開いていた。

「手薄の筈では無いのか、なぜ攻め落とせんのだ」

本陣で那古野城を見つめる織田信清はイラついていた。

「どうなっているのだ」

「殿。予想に反して向こうの士気が高く崩すことができません」

「守備兵の数が少なく、士気が低く簡単に我らになびくのではなかったのか」

「那古野城の留守を預かる者たちの中で、我らに協力すると言っていた者たちが一切の協力を拒否しております」

「今になって臆したとでも言うのか」

「申し訳ございません」

「なぜ、これほどまでに強固な備えなのだ」

「殿。まるで我らが攻め寄せることを想定していたかのような備え、長びくのは危険でございます」

「長びくのが不味いことぐらいわかっている。長引けば信長が摂津から戻ってくる。だが、どう考えてもあと5日は戻って来れんだろう」

「殿。一大事にございます」

「何事だ」

「我ら後方に織田信長率いる軍勢2千。西の方向から柴田勝家率いる千五百の軍勢が接近」

「何を寝ぼけたことを言っている。奴らは摂津国に行っているはずだぞ」

「しかし、あの旗印は間違いございません」

本陣を出て周囲を見ると、遠くに接近してくる軍勢が見えていた。

「馬鹿な・・やられた。嵌められたか・・・信長め、儂を誘い出すためにわざと隙を見せていたのか・・・」

「殿このままでは我らは囲まれ、袋の鼠となります」

「那古野城攻めは中止する。これより敵陣を突破して犬山城に戻る。敵の首は捨てておけ、囲みを食い破り生きて帰ることを優先せよ」

織田信清の軍勢は、すぐに陣を捨て後方の織田信長の軍勢に向かって駆け始めた。

織田信長の軍勢は動かずに固まっているように見えた。

「奴らは我らに恐れをなして動けんぞ。一気に敵を切り崩せ」

織田信清の声に応えるように軍勢は、織田信長の軍勢へと襲いかかる。

その時であった。

信長の軍勢から鉄砲による一斉射撃が始まった。

鳴り響く轟音と風に乗って流れてくる火薬の匂いが戦場に充満した。

「馬鹿な、なぜあれ程の数の鉄砲があるのだ。確か信長の持っている鉄砲は10から20挺程度だったはずだぞ」

「殿。あれはどう見ても200挺はございます。火薬も豊富にあるようで鉄砲が止みません」

次々に撃ちかけられる鉄砲によって、織田信清の兵たちが次々に倒れていく。

鉄砲の玉が織田信清の頬をかすめる。

「クッ・・」

「殿後方から那古野城の城兵が攻め寄せてきます」

「敵の手薄な東を回って犬山に戻る。急げ」

織田信清らは追撃を振り切り、犬山城近くまで戻ってきた。

軍勢は多くの被害と多くの足軽が逃げ出したこともあり500名ほどになっていた。

織田信清が居城犬山城に近づいていくと多くの旗印が風に靡いているのが見えた。

「なぜ、あれほどの数の旗印があるのだ。儂らが城を出た時には無かったはず」

「殿。よくご覧ください。あれは信長の旗印にございますぞ」

犬山城で風に靡いていたのは、永楽通宝の旗印であった。

「何だと、そんな馬鹿な」

その時であった。

犬山城から大きな笑い声が聞こえてきた。

「ハハハハ・・・・・織田信清。ご苦労であった」

「この声は、信長」

「那古野城までの遠征ご苦労。おかげで簡単に犬山城を手に入れることができた。礼を言う。謀反人は処罰せねばならん。儂は幕府より正式に尾張国守護に任じられた。幕府より尾張国内での謀反人の処罰は尾張国守護に任せるとのお言葉を貰っている。我が一門衆でありながら裏切った罪は重い。潔く腹を切るか儂に討たれるか決めるがいい。逃げられるなどと思わんことだ。街道という街道。道という道は全て塞いである。お前たちに逃げる場所は無い」

信長の言葉を聞いた信清は、悔しさで拳を握り締めていた。

「舐めおって・・舐めおって、この信清をどこまで舐めるのだ。儂の城だ。犬山城は儂の城だ。誰にも渡さんぞ。犬山城を取り返す。儂に続け」

犬山城を取り返さんと攻め込むが、すでに数を大きく減らし囲まれた信清たちに勝ち目は無く、やがて信長の軍勢に飲み込まれていった。

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