第316話 大阪城での謀議

将軍足利義輝と幕府管領上杉晴景は、大阪城に入っていてた。

2人は大阪城に入ると天守へと登っていた。

天守から見える大阪の街は壮観である。

遠くには沖合を交易の船が行き交うのが見え、眼下には拡大していく街並みが見えている。

大名たちの屋敷が徐々に増え、商人や町民の家々が増加していく。

現在も、沖合の海を埋め立て街に変え、田畑に変わっていく。

鬱蒼とした森林の場所でも森林を切り開いて街に変え、田畑に変える作業が続けられている。

天守からの眺めを見ることで、新しい都の息吹を感じることができた。

将軍足利義輝は、ここからの眺めが気に入っていた。

「晴景。ここからの眺めは絶景だ」

「はっ、他で見ることができぬほどの絶景にございます」

「うむ、まさしくその通りだ」

「ここから新しい幕府の歴史が始まります」

「そうであるな。あと幕府に従わぬ者たちはどこだ」

「四国は、三好長慶に平定を命じております。四国平定は間も無く終わるとの報告が届いております。残るは紀州と奥州になります」

「奥州の様子はどうだ」

「奥州は、伊達と周辺大名たちの中が険悪で、お互いの隙を窺っていると報告にございます」

「ほぅ、伊達家は確か伊達晴宗であったな」

「はっ、その伊達晴宗と周辺大名たちの仲が悪いようです。父親の稙宗から家督を奪い無理やり隠居に追い込んだものの、その結果、伊達に従っていた全ての大名が独立。もはや収拾がつかぬようです」

「紀州はどうだ」

「元々守護大名は名前だけの地。それぞれの地での国衆が強いため、紀州としてのまとまりが無い状態。さらに高野山がかなりの兵力を持っております」

「どちらを先にする」

「ならば紀州を平定することが先かと、ここ大阪城に近いため、周辺をしっかり固める意味もございます。ですが、まずは四国平定が終わってからといたしましょう」

「そうか、ところで尾張はどうなっている」

「織田信長殿の仕掛けた罠に織田信清がかかったようです」

「ほほぅ、ならば尾張は織田信長が統一して尾張はまとまることになるな」

「間違いなく尾張国は織田信長でまとまるでしょう」

そこに、幕府の側近の1人が駆け込んできた。

「上様。尾張国守護織田信長殿の使者で織田信包殿がお見えです」

「信長殿の使者か、会おう」

しばらく待つと、天守に若い1人の男が入ってきた。

男は2人の前で平伏する。

「尾張国守護織田上総介信長の家臣織田信包と申します」

「それで、何が起きた」

「はっ、尾張国内にて謀反が発生。留守の那古野城に軍勢が押し寄せたとの報告が入り、主人である織田信長は謀反鎮圧のため手勢を引き連れ尾張国に戻りました」

「そうか。承知した。何か困ったことがあれば管領の晴景に相談せよ。晴景、良いな」

「はっ、承知いたしました」

「管領上杉晴景様、よろしくお願いいたします。大阪屋敷の留守はこの信包が預かっております」

「承知した。謀反を起こしたのは織田信清であるな」

「はっ、間違いございま・・なぜ、ご存知で」

織田信包の表情が驚きに変わる。

織田信包は、大阪城に到着してからの自分の言動を振り返るが、織田信清のことは言っていない。

さらに、茶会の席でのことを思い返すが、兄信長も自分たちも織田信清のことは一言も話していない。

「フフフ・・たまたまだ。たまたま知っただけ、気にするようなことではない」

ニッコリと微笑んでいる上杉晴景の目を見ている織田信包は、背中にじっとりと嫌な汗が流れるのを感じていた。そして、多少空気が重くなったような気がしてる。

事前に準備をして見張っていた織田家が大阪の織田家の屋敷に報告を入れるよりも、先に幕府側が情報を手に入れていた可能性が高いことに驚きを隠せないでいた。

兄信長が幕府の中で最も恐ろしいのは、幕府管領殿と言った意味が分かった織田信包であった。

上杉晴景に見つめられると、全てが見透かされているのではないかと思えてくる。

幕府管領殿の恐るべき情報収集力について、確実に兄信長に報告をしなくてはいけないと思うのであった。

「そのたまたまが気になるのですが」

「他愛もないことだ。気にするな。それより信長殿に伝えてほしいことがある」

「はっ、何でしょう」

「助けはいらんんだろうと思うが、もしも謀反鎮圧の助けが必要ならいつでも言ってくれ、それと謀反鎮圧が終われば、大阪にて茶会を開くので、その茶会に招待すると伝えてくれ」

「承知いたしました。必ずやお伝えいたします」


織田信包は、急ぎ大阪の織田屋敷に戻った。

留守を預かる家臣たちの中に信長の抱える忍びの組織‘’饗談‘’の忍びが1人残っていた。

「重義。饗談で残っているのはお主だけか」

「兄重休を含め大阪にいた全ての饗談の者は、信長様と共に尾張に向かいました」

岩室重義は甲賀53家岩室家の流れを汲む忍びであった。

「そうか」

「如何されました。上様、管領様への報告で何か問題がございましたか」

「いや・・問題はなかった・・いやあるか」

「どうされたのです」

「管領様の情報収集力に驚かされた。儂が大阪城に出向いた時には、すでに織田信清の蜂起を知っていた。事前に準備をしていた我らよりも早く情報を手に入れていた可能性がある」

驚かない岩室重義の態度に疑問を覚えた信包。

「驚かんのか」

「我ら忍びの者からしたら、管領様が我らよりも早く情報を掴んでいたことは不思議ではありません」

「なぜだ」

「抱える忍の数が桁違いでございます。管領様は各地にある忍びの里を吸収、そこに山伏、僧侶、商人を加えた独自の情報網をお持ちです。大阪にいながら日本各地の情報が管領様の元に集まります。下手な策を企んでもすぐに発覚するのがオチでございます」

「桁違いとは」

「あくまでも我らの推測ですが、我ら饗談は数十程度ですが、我らより桁が2桁は違うと思われます」

「なんと」

「このことは信長様にも話してございます。敵対するのは危険が高いかと思われます」

「それほどとは」

「織田信清の件で何か管領様が心配されていましたか」

「いや、全て終わったら兄上を茶の湯に招待すると言われていた」

「なら、管領様は集めた情報で信長様の勝ちを確信されているのでしょう」

「確信か」

織田信包は情報の持つ力をまざまざと見せつけられた思いだった。

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