第314話 新たな都

上杉晴景らは、有馬温泉を堪能したあとは、神戸津から船を使い摂津へ向かい、淀川で少し小さな船に乗り換え、新たに作っている大阪の水路に入っていく。

淀川の流れが作り出す広大な湿地帯であった場所には、何本もの水路が掘られ、水路に沿って多くの家々が立ち、さらに水路の両側には多くの商人たちの店が軒を並び始めて、新たな街が出来始めていた

心地よい風を受けながら船は、ゆっくりと進んでいく。

流れてくる風には、かすかに木の香りがしている。

新たに立つ家々や商家を建てるための木材の香りだ。

日本に新しい街が産声を上げ始めている。

将軍足利義輝と管領上杉晴景は、そんな風を体に受けながら、大阪を新たな行政府と商都にする事を考えて、着々と計画を進めていた。

2人は京の都は悪くはないが、あまりにも多くの勢力がひしめき合い、あまりにも多くのしがらみが絡み合い、思い切った政策などを打ち出していくには向いていないと考えていた。

摂津の問題の一つである本願寺は2つに分割。

既に、本願寺は京に移動して、京の東西に分かれている。

「晴景。既に多くの商人たちが店を出してきているな」

「商人たちからしたら神戸とここ大阪は新たな商機を感じさせる場所という事でしょう」

「まあ、その分堺が衰退するであろうな」

「堺はあまりにも力を持ちすぎです。幕府の制御を効かせるためには、ある程度、ここ大阪と神戸に商人を移すことが重要です」

「確かに堺の商人たちの独自の力は、脅威であるな。あまりに大きな力を持たせすぎると幕府で抑えきれないか」

「ここ大阪と神戸は幕府の力で整備しております。我らの力が十分に及ぶ場所。商人たちの好き勝手にさせず管理ができます」

船の進む先には、巨大な城が見えていた。

本願寺との対立のとき、本願寺に対抗するために作った仮の城であったが、本願寺が幕府に降ったあとは、時間をかけて本格な城として完成させていた。

三重の堀を備え、さらにいくつかの出城を作るつもりである。

三重の堀と出城と連動させることで無類の強さを発揮する城になる予定だ。

本願寺跡は、大阪の行政府兼出城の役割を持たせる予定で築城が進んでいた。

既に大阪城の周囲には大名たちの屋敷が立ち始めていた。

2人は、大名屋敷が来始めている場所で船を降り岸へと上がった。

そこには、幕府の役人、上杉家の家臣たち、そして1人の武将がいた。

「上様。尾張国織田上総介信長と申します」

「将軍足利義輝である。出迎え大儀」

織田信長は、幕府軍が九州平定が幕府優勢との知らせ受けると、すぐに大阪城の近くに織田家の屋敷を作り始めていた。

同時に尾張守護として認めて欲しいと申し出が届いていた。

「当家の屋敷も出来上がりましたので、ぜひ当家屋敷にお立ち寄りいただけたと思い参上いたしました。拙いですが手前の点てた茶をお召し上がりいただければ幸いに存じます」

「よかろう。ぜひ、信長殿の点てた茶を馳走になろう。晴景。共に参ろうか」

「はっ、承知いたしました。ところで信長殿」

「はっ、何でしょう」

「後ろに控えておられる方達は、織田の家中の方で」

信長の後ろに緊張が隠せない若武者らしき男と歴戦の猛者を思わせる風貌の男が控えていた。

「弟の織田信包おだのぶかね、家老の柴田勝家にございます」

織田信包は、織田信行が謀反の咎で殺されて以降、弟たちの中ではかなり高い地位として扱われていて、その扱いは織田一門の中では別格の扱いであった。

「ほ〜弟殿とご家老でござるか、幕府管領上杉晴景と申す」

「織田信包と申します」

「家老の柴田勝家と申します」

2人は緊張しながら深く頭を下げていた。

2人の立場からしたら将軍と幕府管領は、会おうとして会える相手ではないため、かなりの緊張が見てとれた。

「遠路よく来られた。大阪は幕府が作り上げた新しい街であるがこれから大きく発展していく。よく見て帰られるがよかろう」

「「はっ」」

一行は、織田信長の案内で織田家が作った屋敷へと向かった。

門をくぐると真新しい木の香りがしてくる。

庭に野点の席が設けられていた。

朱色の傘の下に茶釜が置かれている。

織田信長が茶釜の前に座り、信長自慢の茶碗を用意して茶を立てる。

大井戸茶碗のようだ。

慣れた手つきで茶を点てていく。

信長の点てたお茶を上様が飲み干す。

「ほ〜なかなか良い茶であり、良き茶碗を使っている」

「もったいないお言葉でございます」

続いて晴景が信長の点てた茶を飲む。

「なかなか良き茶でございます」

「まだまだ茶は未熟でございますが、茶人として聞こえる方にお褒めいただき嬉しく思います」

「この大阪には、堺、京、大和から茶人が集まります。大阪におられる時は多くの茶人と会われるとよろしいでしょう。機会があれば多くの茶人を紹介いたしましょう」

「ありがとうございます。ぜひ、お願いいたします」

少し離れたところにいる織田信包と柴田勝家は、かなり緊張したの表情でこちらを見ていた。

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