第312話 九州平定の報告

九州の平定を終えた上杉晴景は京の都に戻ると、すぐさま将軍足利義輝のいる室町第にやって来た。

「晴景。九州平定の役目。ご苦労であった」

「勿体無いお言葉。どうにか九州の平定を終えました。今後は九州の大名も幕府に従うことになります。此度の九州平定に関しては、日向伊東家は幕府に従わなかったためこれを討ち滅ぼしました。そのため、日向国南半国に関しては九州の名門菊池家を復活させて治めさせ、日向国北半国は最初から幕府に従っていた相良家に治めさせます」

「菊池家か、治め切れるか」

「日向国半国ならば可能と思います。九州の大名には、他国他領を攻めることは禁止であると再度申しつけて参りました。攻めた場合幕府の名にかけて成敗すると言ってあります。現在、幕府の役人たちが国境の確定に動いております。これが終われば戦に力を割くことはなくなります。そうなれば、大名たちは領地運営における負担は減りましょう」

「分かった。他はどうなった」

「最初幕府に従わなかった大友家に関しては、豊前北半国と筑前国は幕府に召し上げ幕府直轄とします。特に博多津と門司は、海上航路と交易の重要拠点。ここは確実に幕府で抑える必要がございます。さらに、大友家からは明国との交易に使う‘’日本国国王‘’の印と交易の割符を回収してまいりました」

「印は無事であったのか」

日本国国王の印と交易の割符は元々将軍が持っていたが、財政難から銭と引き換えに大内家に渡り、大内家が滅んだ時に大友家の手に渡っていた。

「これでございます」

上杉晴景は桐箱を将軍足利義輝に渡す。

足利義輝が桐箱を開けると幾重にも布に包まれた印と割符が出てきた。

「これだ。間違いない。ようやく将軍家に戻ってきた」

足利義輝は満足そうに印と割符を見ていた。

「残りのことですが、肥前国竜造寺隆信は戦いを挑んできたためこれを討ち取りました。このため、肥前国に関しては、有馬家・少弐家そして龍造寺家の家老であった鍋島直茂ら3家で治めさせます」

「有馬、少弐、鍋島か、分かった。それでいいだろう」

「大隅国肝付家は、惣無事令後も飫肥を攻めており最初幕府に従わなかったため、所領を大隈国南半国とし、北半国は飫肥を治める島津忠親に与え、これで島津家と肝付家の手打ちと致しました。さらに阿蘇神社大宮司である阿蘇家の所領と大宮司の役割はそのままと致しました。以上が此度の九州平定の結果となります」

「これで、九州も戦乱が治まり安定するであろうな」

「他に2つ問題がございます」

「他に何かあるのか」

「1つは、伊東家との戦が始まる前に、大友家家中の伴天連の信徒たちが日向北部の神社仏閣を邪教と罵り一方的に焼き討ちいたしました。その数は10件を越えます。大友家で軍規違反として首謀者を処罰しましたら、残りの伴天連信徒たちが謀反を起こそうとしたため、大友家でこれを処断致しました」

「神社仏閣への焼き討ちと謀反だと」

「伴天連信徒たちは、伴天連の国を作ることを考えていたようです」

伴天連の国と聞き、足利義輝の表情が曇る。

「伴天連は危うい。晴景が懸念したことが現実になったな」

「伴天連に関しては早急に手を打つべきと思います」

「どのようにすればいいのだ」

「南蛮人の伴天連宣教師の日本国への立ち入り禁止。日本にいる伴天連宣教師は国外追放。九州の大名たちには、信仰は認めるがこれ以上伴天連を広めることは禁止であると、命じる必要があります。さらに、南蛮商人たちにも、布教をするなら入国を禁止すると、通達を出す必要があります」

「分かった。早急に儂の名で通達を出そう」

「残りのひとつですが、南蛮人商人たちが日本人を奴隷として売り買いを始めております。既に売られ奴隷として、南蛮人の国へと連れていかれた者たちが出ております」

「なんだと!」

足利義輝は、日本人が奴隷として南蛮人に連れていかれたと聞きショックを受けていた。

「南蛮人商人と西国大名たちに奴隷の売り買いを禁止することが必要です」

「分かった。そのような真似は断じて許す訳にはいかん。すぐに通達を出そう」

「ありがとうございます。これで、異国に連れていかれる日本人が出なくなるかと思います」

「晴景には苦労をかけた。しばらく、温泉にでも入ってゆっくりと休んでくれ」

将軍家と幕府を支える晴景に対して足利義輝はねぎらいの言葉をかけるのであった。

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