第309話 島津からの来客
上杉景虎は、幕府に敵対した伊東義祐を討ち日向国を制圧。
大友家中の伴天連達の反乱も小さな内に抑えることにも成功していた。
景虎は、兄である幕府管領上杉晴景に書状を送り、状況を詳細に書いて報告していた。
城下には、無傷で残された金箔寺。
そこに貼られた無数の金箔に、陽の光が反射してその威容を放っている。
そして、大和国から一流の仏師を呼び作らせた大仏。
この国の経済力からして不釣り合いなほどに目立っている。
城下町は、幕府軍により治安が維持され、全ての軍勢には厳しい軍規が適用されるため、乱取り行為を行う者は1人も出ていなかった。
乱取り、窃盗、領民への暴行は、厳しく処罰し、切腹、打首を申し渡すと触れが出されている。
幕府軍の主力となっている上杉勢がその厳しい軍規を守り、さらに周辺に目を光らせているために、他の大名の軍勢も軍規を守るしかなかった。
そんな日向国をわずかな供回りを連れた2人の人物が訪れていた。
薩摩国守護である島津貴久の嫡男である島津義久、飫肥城主である島津忠親であった。
「なぜ、これほどまでに軍規が保たれているのか、ありえないだろう」
島津義久は驚きを隠せなかった。
通常、戦となれば乱取り、窃盗は当たり前で珍しくもない。
乱取り禁止、窃盗禁止などと言っても表向きだけで、裏でこっそりとやっているのが普通であった。
だが、幕府軍は8万もの大軍勢でありながら、日向国内で乱取り、窃盗の類は一切起こしていない。
2人が通った村々では、乱取り、窃盗、暴行などは起きていなかった。
「驚くべき規律の高さだ!これほどまでに厳しい軍規が定められ、それを全ての軍勢に守らせていることが驚くべきことでしょう。兵が多くなればなるほど軍規を守らせることは難しいものです」
島津忠親は幕府軍の規律の高さに驚いていた。
「義久殿。我らはありのままに申し開きをするべきです。下手な小細工を弄するような申し開きは危険でしょう。これ程までの数の軍勢を掌握することは並大抵のことではありません。これをやれる相手と敵対することになれば、間違い無く我らは終わりとなります」
「やはりそう思うか」
幕府軍の規律の高さに顔色が冴えない島津義久。
「厳しい軍規を守らせることができるとなれば、軍勢の士気も高いと考えるべきでしょう」
「そうか、ならばありのままに話すか・・・それしかあるまい」
2人は無言のまま上杉景虎の待つ、上杉本陣へと向かって行く。
上杉家本陣で島津義久、島津忠親の2人と対面した上杉景虎。
平伏している島津義久・島津忠親の2人に、上杉景虎は島津家が幕府に従うのか問い掛けていた。
「なぜ、いつまでも戦いを続ける。さらに、なぜ門司に誰も来ない。書状には、必ず来るように書いてあったはず」
平伏していた島津義久は、上杉景虎の言葉に顔を上げて答えた。
「我が縁戚である大隅国の肝付兼続が伊東義祐と手を組み、飫肥を始めとする島津の領地を突如として責め始めたため、隙を見せれば攻め込まれる為、動くに動けず門司に行くことが叶いませんでした」
「飫肥城主の島津忠親殿の娘は肝付兼続殿の正室。そして、肝付兼続殿の妹が島津義久殿の父上島津貴久殿の正室であった聞いた。言わば身内ではないか、身内同然ならば戦を治めることもできたのではないか」
「残念ながら、父の正室は嫁入り後間も無く病にて亡くなっており、そのため絆が薄いことと、伊東義祐の奸計により、このような事態となったと思っております。先に飫肥を攻め始めたのは、伊東義祐と肝付兼続にございます。我ら島津家は必死に防戦に努めておりました」
上杉景虎は、肝付兼続はかなりの策士のであるとの情報は商人達から得ていた。島津義久の話した内容に関しても、商人達が事前に入手した内容と合っていた。
少なとも表面上は嘘は言っていない。
「ならば、幕府の裁定には従うのだな」
「はっ、幕府の裁定には従います」
「此度の件は、幕府管領殿の裁定に委ねることになるが良いな」
「はっ、承知いたしました」
肝付兼続には、日向に出向くように書状を出したが来ることも無く、書状による申し開きも無かった。
肝付兼続への書状には、惣無事令を無視して島津へ攻撃をしたことに対して、申し開きをせよと書いてあった。
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