第308話 耳川の戦い(5)

大友家は、伴天連達の蜂起を抑え込み何事も無かったかのように、伊東義祐の軍勢に向かって襲い掛かる。

だが、立花道雪の獅子奮迅の活躍にもかかわらず戦場は、一進一退の攻防を繰り返し決め手にかけていた。

伴天連の家臣達に処分を下してすぐに戦いを始めたため、大友家側は戦力を大きく減らしての戦いであったためだ。

そんな膠着状況は、すぐさま上杉景虎に報告が上がる。

上杉景虎の本陣は、既に移動を開始して前線近くまで来ていた。

「景虎様、大友勢は伴天連の家臣を処分したためか、伊東勢を押し切れぬようです」

「大友はやはり苦戦しているか。ならば、後押しをするとするか。直ちに大友支援のため軍勢を動かす。北条勢は直ちに敵の横を突き大友を支援せよと伝令を出せ」

「承知しました」

伝令に家臣達が動き出す。

「相良勢はどうだ」

「いまのところ問題無いかと思われます。敵を徐々に押し込んでおりますので、崩されることは無いかと」

「大友・相良が敵を打ち破ったら軍勢を押し上げ、小丸川を渡り一気に敵本陣である宮崎城に向かうぞ」

「承知しました」

上杉景虎の指示で北条勢が大友の支援に入り、敵勢の横腹に攻め込み、敵を切り崩していく。

北条勢による横からの攻撃に対処するために必死の防戦に努めるが、やがて前線を維持できなくなり、1人が逃げ出すと次々に逃げ出す者達が続失。

とうとう前線が維持できず伊東勢の前線が崩壊した。



逃げる伊東勢を追って幕府軍が一斉に小丸川を越えて進軍を開始した。

皆、油断無く浅瀬を渡って行く。

11万の軍勢が川を越え宮崎城を目指して進む。

城下には多くの寺と大仏堂が目につく。

極めつきは、金閣寺をまねて金箔を張り巡らした金箔寺である。

「ここまでやるとは」

上杉景虎は、伊東義祐が領地のことや領民のことをを考えずに、領地運営をしていることに驚いていた。

「日向国は貧しくはないが特別豊かでもない。その状態でこのようなことを行えば、その皺寄せは領民・家臣に及ぶことになる。何を考えているのだ」

上杉景虎は馬を進めながら呟いていた。

遠くに徐々に山城である宮崎城が見えてきた。

山城であり多くの曲輪を持つ城であり、南には大淀川が流れ、自然の地形をうまく利用した天然の要害でもあった。

以前は佐土原城を居城としていたらしいが、火災にあったため宮崎城に居城を移していた。

「景虎様」

上杉家の家臣が景虎に報告に来た。

「どうした」

「宮崎城の包囲が完了いたしました」

「伊東義祐は、宮崎城にいるのか」

「はい、宮崎城にて籠城しております」

「我らの全ての軍勢に通達。宮崎城への通路は全て封鎖せよ。翌朝より宮崎城攻めを開始する。さらに上杉家の武将には、宮崎城攻めに際して、鉄砲・焙烙玉・焙烙火矢・抱え大筒に使用を許可する。進軍を邪魔するものは全て吹き飛ばせ」

「承知いたしました」

上杉景虎は、明日の宮崎城攻めはできるだけ時間を掛けずに一気に終わらせたいと考えていた。

そのため、最初から出し惜しみせずに攻めることを決断したのである。


小高い丘陵地に立つ宮崎城に早朝より上杉勢の猛攻が始まった。

上杉景虎の許可を受けた上杉勢は、積極的に焙烙玉・焙烙火矢・抱え大筒を使用して戦いに臨んでいる。

軍勢の進路を塞ぐ城門や柵はすぐに爆破。

焙烙玉・焙烙火矢・抱え大筒の破壊力の前に、城門や柵は無いも同じであった。

遮るものが無いため、上杉勢は瞬く間に全ての曲輪を制圧した。

そして、いま宮崎城の城門が爆破され本丸への扉が開かれた。

本丸へと殺到する軍勢。

本丸からは火の手が上がった。

火の手は瞬く間に燃え上がり本丸を飲み込んでいく。

宮崎城の立つ小高い丘陵の麓で、上杉景虎は燃え上がる宮崎城を見ていた。

「呆気ないものだ。周囲の言葉を聞き、傲慢にならなければ、このようなことにはならなかっただろう。これも乱世の世が生んだ人の世の歪みか・・・」

「景虎様」

「どうした」

「伊東義祐を討ち取ったとの報告が入りました」

「分かった。討ち取ったもの達には儂から特別に感状を渡すとするか」

上杉景虎は燃え続ける宮崎城をいつまでも見つめていた。

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