第302話 沖田畷の戦い

龍造寺隆信率いる軍勢2万5千は船で島原半島北部神代に上陸した。

短期間で有馬を攻め落とすために、速やかに移動するため船を使い、2万5千の軍勢を島原半島へと送り込んでいた。

龍造寺隆信は上陸するとすぐに家臣六名が担ぐ輿に乗り、龍造寺に近い関係である寺中城へと入って軍勢が揃うまで待っていた。

「殿。2万5千の軍勢は全て揃いました」

「すぐに軍議を始める。用意せよ」

すぐに有馬攻めの武将たちが集まってきた。

「うむ。皆ご苦労である。これより有馬を攻め潰す。これにより、後顧の憂い無く筑前からの幕府軍とあたることができることになる」

「有馬を攻め潰せば、皆我らの力を知り、日和見の肥前の国衆も素直になりましょう」

「有馬の連中はどうしている」

「はっ、眉山の麓にある森岳砦に幕府勢と有馬勢の4千が籠っております。沖田畷中央付近に2千の兵が待ち構えております。おそらく道の狭さを利用して守り切る構えかと」

「フッ、なるほど多少は頭を使えるようだ。狭い場所を利用する。そして砦に籠るつもりか。筑前に軍勢が揃い、動くまでの時間稼ぎか。まあ良いだろう。一捻りで打ち倒してくれる。奴らにそのような時間稼ぎは無駄だと教えてやろう」

「殿。ですがこの先は湿地でございます。軍勢を進めるには少々厳しいかと」

「敵は寡兵にすぎん。我らとの差は圧倒的。圧倒的な数の差で打ち倒せば良いだけだ。多少、土地が悪かろうが問題無い」

「ですが、敵を侮るのは危険」

「ふむ、まあ確かに敵を侮るのは危険である。ならば、軍勢を3つに分ける。沖田畷中央攻めを本体として1万8千で攻める。別働隊として海沿いから3千5百。山手側に迂回しての軍勢を3千5百とする。別働隊は森岳砦の背後を攻めよ。奴らを逆に沖田畷に追い込め、そこで撫で切りにしてくれよう」

「承知いたしました」

「では、有馬を叩き潰し存分に手柄を立てろ。良いか。のんびりと戦っている訳にはいかん。一気に決着をつけ、その勢いを持って幕府軍とあたる。ここは単なる前哨戦にすぎん。いつまでも関わっている訳にはいかんのだ」

沖田畷攻めの陣立てを決め、別働隊の人選を決めて、いよいよ龍造寺の軍勢は有馬家を倒すために動き出した。


寺中城を出た龍造寺の軍勢は、予定通り海沿いに3千5百。

迂回しての山側に3千5百。

沖田畷に1万8千の軍勢。

沖田畷を進む1万8千の軍勢は、5つに分かれている。

先陣の軍勢から一陣、二陣、三陣、龍造寺隆信のいる本陣、本陣の後方を守る後詰め。

そして今第一陣が沖田畷で敵と会敵した。

有馬側からは数発の鉄砲を撃ち、矢を射掛けて来る。

「敵は寡兵だ。グズグズするな、一気に押しつぶせ」

龍造寺隆信の檄を受けて第一陣の軍勢が沖田畷の細い道を突き進む。

鉄砲の銃弾や矢を受けたものたちが、沖田畷の左右の湿地や深田に落ちて息絶えていく。

有馬側は、しばらく激しく矢を射掛けてきたが、急に崩れて逃げ出し始めた。

「敵が崩れたぞ。行け行け、敵を残らず打ち取れ。ひとりも逃すな」

龍造寺隆信の檄を受けて第一陣は、逃げる有馬の兵を追いかけ始める。

沖田畷の終わりの付近に柵と大木戸が見えてきた。

「奴ら逃げ足だけは早いな」

「木戸と柵があるぞ」

「敵は木戸の後ろにいるぞ」

「かなり頑丈そうに見えるぞ」

足軽たちが騒ぎ始める。

大木戸と柵の間から多数の鉄砲が見えている。

龍造寺の兵たちはどんどん大木戸との距離を詰めて行く。

多数の兵が狭い沖田畷を進んでくる。

立ち止まることを許さぬと言わんばかりの後ろからの圧力もあり、軍勢はひたすら前へ進んでいく。

龍造寺の第一陣の軍勢が、あともう少しで有馬側の築いた大木戸に到達するその時、鉄砲が火を吹く。

次々に鉄砲の前に倒れる龍造寺の兵たち。

「だ・だめだ。前に進めね・・」

「下がれ。これ以上進むと鉄砲の餌食だ」

だが、下がろうとすると後方からこちらに進んでくる軍勢と鉢合わせとなり、ただでさえ狭い沖田畷が大混乱に陥り、沖田畷の中で龍造寺の軍勢の動きが止まる。

「下がるな。なぜ止まる。前に進め」

「殿のご命令だ。前に進め」

第二陣からの檄が飛ぶがそれを無視して多くの者たちが前線から逃げようとしている。

動きが止まれば鉄砲と弓矢の的でしかない。

次々に左右の湿地と深谷落ちていく龍造寺の兵たち。

逃げ場を失い自ら深田に飛び込むものもいるが、場所によっては胸まで埋まるほどの深田。

たちまち動くことができなくなり、狙い撃ちにされる。

動かぬ軍勢にイラつく龍造寺隆信は、戦いの状況を確認するため本陣の家臣を前線確認のために側近を前線に派遣した。

「何をしている。殿はお怒りだぞ。命を惜しむな、進め。全軍前に進め」

状況確認のために前線に派遣した側近が指示に無い余計な発言をする。

龍造寺隆信の側近の言葉に、前線の武将たちの顔には失望の色が浮かんでいた。

「この状況で我らに死ねと言うのか・・・・・」

「進むことも逃げることもできない・・・」

「俺たちに無駄死にしろと・・・」

身動き取れない沖田畷の上で、一方的に撃たれる龍造寺の軍勢が崩壊するは、もはや時間の問題であった。

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