第303話 龍造寺の終焉
龍造寺の軍勢で島原半島の海岸沿いに進む3千5百の兵。
1人の兵が声をあげる。
「おい、海に南蛮船がいるぞ」
有明海に2隻の南蛮船が浮かんでいるのが見えている。
「かなりデカいな。この有明の海じゃ滅多に見ない船だな」
突如、南蛮船から大きな音と共に火と煙が上がる。
一瞬遅れて海岸の波打ち際で爆発が起きる。
水飛沫と跳ね上がる砂と泥。
足軽たちは突然の出来事に身をすくめ、動きを止める。
上杉家が所有する南蛮船からの大砲による砲撃が始まった。
船の両舷に10門の大砲を備えた2隻の船。
海岸に平行に並び片側の各10門の大砲を使い、海岸を進む龍造寺の軍勢に激しい砲撃を加え始めた。
砂浜で次々に爆発が起こる。
舞い上がる砂埃。
飛び散る水飛沫。
その度に多くの兵が飛ばされ倒れていく。
やがて、大砲による攻撃が止むとそこは地獄の如き有様になっていた。
砂浜では、倒れた兵たちのうめき声と血の匂いが充満している。
半数近いものたちがもはや戦うことができない状態であった。
息絶えて骸を晒すもの。
腕を失い、足を失い、うめき声を上げるもの。
血塗れになり這いずりながらも逃げようとするもの。
怪我は無いが、腰が抜けて動くことができないもの。
そして、海岸線を北に向かってやってくる軍勢がいた。
大友の軍勢5千だった。
「不味いぞ。大友の軍勢だ」
「逃げろ〜大友だ」
上杉家の南蛮船からの砲撃で大きく兵力を減らした龍造寺の軍勢は我先に逃げ出す。
そんな龍造寺の軍勢に大友の軍勢は、容赦無く襲い掛かるのであった。
雲仙岳の麓
沖田畷を大きく迂回して山沿いを通り森岳砦を背後から突くための龍造寺の軍勢3千5百。
すっかり勝ち戦さだと思い込み、緊張感の薄いことが見てとれる。
一応慎重に進んでいるものの、それぞれの表情には負けることをまるで考えていないように感じられるほどのんびりとした表情である。
山道を進んでいると突如、目の前が大きく開けた草原のような場所に出る。
そしてそこには、幾重にも柵が作られ上杉の軍勢が待ち構えていた。
「待ち伏せ・・・罠か」
その時、龍造寺の軍勢の後方から声が上がった。
「敵襲〜」
龍造寺の軍勢の後方への上杉の伏兵による攻撃が始まっていた。
後ろからの上杉勢の攻撃により、後方にいる龍造寺の兵たちは上杉の攻撃を抑えきれないため、前に逃げようとする。後方の兵たちが前に逃げようとする圧力で龍造寺の軍勢は否応なく前に押し出されてしまう。
「前に来るな。後ろの敵を押し返せ、前に来るな」
「前にも敵がいる。後ろの敵を押し返せ」
前に逃げて来るものたちを抑えることができずに、見通しの良い開けた草原に押し出されてしまった者たちに、横から鉄砲による攻撃が始まる。
多くの者たちが鉄砲による手傷を負ったところに上杉の長槍隊が襲い掛かった。
多くの者たちが討ち取られ、龍造寺の兵たちは散り散りになり逃げ出していった。
龍造寺本陣
沖田畷攻めの一陣、ニ陣が総崩れとなり、慌てた龍造寺隆信は急ぎ退却を指示した。
「殿。一陣、ニ陣共に総崩れ。一陣、ニ陣の兵達はほとんど討たれました。このままでは本陣も身動き出来なくなり、危うくなります」
味方の総崩れの状況と、このままでは自分達も危うい状況に衝撃が広がる。
つい先程まで楽勝ムードだったため、その衝撃は計り知れない。
「クッ・・・仕方あるまい。退却。退却だ。寺中城まで下がるぞ。急ぎ退却だ」
龍造寺の軍勢は、狭い沖田畷を急ぎ退却を始めるが、道が狭く思うように進めない。
龍造寺隆信が乗る輿を担いでいる家臣たちも必死に走る。
上杉勢の激しい追撃を受けて、龍造寺の軍勢は次第にその数を減らしていく。
狭い道の中では戦える人数は限られる。
その状況で守勢に回り、なおかつ退却となれば、忠誠心の薄い軍勢では敵を押し返す事は難しい。
「何をしている。急げ、急げ、急げ!」
ようやく、沖田畷を抜けると龍造寺の軍勢は、主人である龍造寺隆信よりも我先に逃げようとしている。
「何をしている。儂を守らんか。皆どこに行く。戻って来い。儂を守れ」
龍造寺隆信の叫び声を無視して皆バラバラになり逃げていく。
輿を担いでいる家臣たちも輿を担いで必死に走るが、次第に速度を落とし、やがて歩く速度と変わらぬほどになっていた。
「何をやっている。貴様ら走れ、走らぬか」
輿を担いでいる家臣に叱責の声を上げる。
輿を担いで休み無く戦場を走り続けてきて、輿を担いでいる家臣たちも体力的に限界であった。
後方から上杉勢が近づいてきていることが見えてきた。
家臣たちは、喚き散らす龍造寺隆信を無視して輿を地面に下ろす。
「殿。もはやこれまでのようです。お世話になりました。あとはご自由になされませ。御免」
輿を担いでいた家臣たちが一斉に走り去っていく。
「貴様ら!!!」
立ち上がり怒りの声を上げるが、すぐ目の前に上杉の軍勢が迫ってきていた。
迫り来る上杉の軍勢を見た龍造寺隆信は、太刀を抜こうとするが、腰の太刀を抜くよりも先に上杉勢の刃が龍造寺隆信の命を断ち切っていた。
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