第300話 美味そうな餌
宇佐美定満の指揮下に入った真田信綱は、宇佐美定満の指示で1万の軍勢を率いて、大友勢1万5千と共に有明海を渡り島原半島南部へと上陸していた。
真田信綱は、父である真田幸綱のように活躍したいと日頃から熱望していたが、なかなか活躍の場がない。どうにかして活躍したいと願っていたところに、西国への招集がかかったことから、真っ先にいくこと決め九州へとやってきた。
そんな真田信綱に島原方面からの龍造寺攻めを任される事になった。
島原に上陸した真田信綱のところに、肥前島原を治める有馬晴純、義貞親子が来ていた。
有馬晴純はかなり白髪が見えるが、義貞は30代後半ぐらいのように見える。
有馬義貞は伴天連の十字架を首から下げていた。
「島原を治める有馬家の有馬晴純と申します。これなるは倅で有馬家を継いだ義貞」
「幕府軍島原方面を預かる真田信綱と申す」
「書状でお伝えしたとおり我らは幕府に従います。ですが我らはわずか3千ほどの手勢しかおりません」
「そのことは大友家より聞いております。そのために我らが参りました。共に力を合わせ龍造寺を打ち破りましょう」
「はっ、ありがたきお言葉」
「早速だが軍議を開こうと思う」
同行してきた大友家の武将たちを交えての軍議が急遽開かれる。
真田信綱は、宇佐美定満より島原方面を任すとの話が出てから、すぐさま島原方面に真田の忍びたちを向かわせ島原周辺を調べていた。
真田の忍びたちの報告の中に、島原北部周辺は広大な湿地と胸まで浸かるほどの深田が広がっていて、その中を細い道が通っている
「儂の考えを言わせてもらおう。島原北部にある沖田畷に誘い込もうと考えている」
「沖田畷でございますか」
真田信綱から沖田畷との言葉を聞いた有馬晴純は少し驚いた顔をしていた。
「そうだ」
「よくお調べになっておられる。確かに広大な湿地と深田の広がる沖田畷であれば有利に戦えるかと思いますが、どうやって誘い込むのです。筑前方面に幕府の大軍が集結しつつあるこの時期に、龍造寺が島原に軍勢を送り込むとは思えません」
「既にそのための手は打ってある」
「それは一体」
「簡単な話だ。龍造寺側に噂を流している」
「噂・ですか」
「島原の有馬殿は幕府と手を組み、龍造寺が筑前からの幕府軍と戦っているところを背後から襲うつもりだ。そのために幕府軍からの援軍として3千が島原に入ったと」
「なんと」
「実際は3千ではなく2万5千の軍勢だが、奴らに分かるはずもない。島原援軍の規模を正確に知られないようにするために、島原北部ではなくわざわざ島原南部から入るようにしたのだ」
「ですがそれだけでは筑前の幕府軍を気にして動かぬのではありませぬか」
「動きたくなるようにすれば良い」
「動きたくなるようにですか」
「もう一つの噂を流している」
「もう一つの噂ですか」
「筑前の幕府軍は、遠く離れた九州で土地勘も無く、準備にかなり手間取っている。島原には先に援軍を送ったが、筑前側は軍勢が多いため意見が分かれ準備に手間取っているようだ。動き出すまであと半月以上はかかりそうだと。当然、この噂話は肥前方面の総大将を命ぜられている宇佐美殿もご承知の噂話だ。龍造寺からしたら挟み撃ちは避けたい。ならば、相手の隙をついて少ない方を強襲して倒し、すぐさま戻り幕府軍に勝った実績で交渉を考える。また、周辺で日和見の国衆たちに龍造寺の力を見せつける事にもなる。我らは龍造寺からしたら美味しそうな餌に見えているだろう」
「我らは餌ですか」
「美味しそうに見えて、それでいてとてつもなく恐ろしく、そして凶悪な餌だ。食い付いたら逆に骨の髄までしゃぶられる事になる恐ろしき餌」
「承知しました。ならばもっと餌らしく見せましょう。島原の領民を使って龍造寺にさらに噂を流しましょう。島原の援軍は、ほとんどが数合わせの百姓の足軽ばかりで、有馬の者たちが困っているようだと」
「クククク・・それは良いな。早速やってくれ。領民たちの噂なら、さらに本気で信じ込むだろう。筑前側の軍勢が動き出す前にどうにかしたいだろうからな」
有馬晴純は、すぐさま領民を使い龍造寺側へ噂を流す準備を始めるのであった。
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