第299話 南へ西へ
九州に上陸して大友家を従えた上杉晴景は、九州の大名に門司に来るように通達を出した。
九州の有力大名の中で無視を決め込んだのが肥後国龍造寺家、日向国伊東家、薩摩・大隅国島津家。
伊東家は島津領の
主君の代理も来ることなく、幕命を無視をしている以上放置することはできない。
上杉晴景の前には九州平定軍の各武将たちが一堂に会している。
勢揃いした武将たちの前に上杉晴景はいた。
「肥前国龍造寺家、日向国伊東家、薩摩・大隅国島津家、この三家が現在幕府に従っていない。門司への呼び出しも無視を決め込んでいる。それゆえ、この三家に対して討伐軍を向けることとする。景虎!」
「はっ」
「8万の軍勢に大友勢2万、相良勢1万。合わせて11万の軍勢を預ける。日向・薩摩・大隅を平定せよ」
「はっ、承知いたしました」
「宇佐美定満。6万の軍勢に大友1万五千、少弐家5千。合わせて8万で肥前を平定せよ」
「はっ、承知いたしました」
「残りは、豊前に本陣を置き、この晴景の指揮下にて各討伐軍の後方支援及び援軍とする」
緊張した面持ちの各武将たちは一斉に頭を下げた。
「特に大友家と少弐家に関しては汚名をそそぎ一層の奮戦を期待する」
その言葉に大友義鎮が答える。
「我が不徳の致すところを、寛大なるお心でお許しいただきありがたき事でございます。この大友義鎮、必ずやご期待にそえる働きをご覧に入れたいと思います」
「大友家の働きに期待している」
少弐冬尚は大友義鎮の言葉に慌てて答える。
「少弐・・少弐冬尚にございます。か・必ずや不忠の輩を討ち果たしてご覧に入れます」
「一層の働きを期待する」
「はっ」
上杉晴景は全武将を見渡す。
「世に安寧をもたらし乱世を終わらせるために戦う我らにこそ大儀がある。これより不忠の輩を討つために出陣する。出陣!!!」
武将たちは鬨の声をあげて、直ちに準備に入った。
肥前国龍造寺隆信の居城佐賀龍造寺城。
肥前の熊と呼ばれる龍造寺隆信は、非常に大柄であり肥満体といえる体をしている。
そのあまりにも巨体すぎる為、馬に乗ることができなかった。
馬に乗ることができないため、戦の場にはいつも6人で担ぐ輿に乗って戦場に赴いていた。
城の広間奥で家臣たちから情勢報告を聞いていた。
「殿」
「どうした」
「幕府軍が動き出しました」
「こちらにはどれほど来る」
「こちらには8万。日向・薩摩方面に11万。後方支援として6万が控えている形です」
「8万か、大友が幕府に尻尾を振った以上、こんなもんだろう」
「殿。やはり幕府に従うべきではありませんか。総勢20万を相手取るのは流石に無理ではありませんか」
幕府の動きに気が気でない家臣たちは、主君龍造寺隆信に再考を促す。
家臣たちの少し怯えにも似た声に、龍造寺隆信は思わず荒げる。
「お前たちは何を言っている。20万、20万と言っているが20万の軍勢が一塊で襲ってくる訳ではないだろう。多くの道や街道では、大概の場所は軍勢は1列で進んでいく。多くても2列ほどだ。ならば地形を生かして戦い、大群の有利を発揮できない場所を選んで戦い、個別に撃破していけば五分だ。恐れる必要は無い」
龍造寺隆信は自信たっぷりの様子であった。
「所詮は寄せ集めの烏合の衆。少し不利になればすぐに逃げ出す。残らず返り討ちにしてくれる。逆に筑前国・豊前国と攻め落としてやるか」
「幕府側には少弐家も加わっているようでございます」
「元々大内家に敗れ流浪状態となった少弐を、肥前一国の主に返り咲くようにまでひたすら支えた我ら龍造寺家の者たちに、奴がした仕打ちを儂は忘れてはいないぞ。謀反の濡れ衣を着せて、無実の罪で父を含む龍造寺家の者たちを皆殺しにしながら、まだ我らの上に立とうとするか。昔の主君なれば生かしておいたまで、戦うなら我らにしたように同じ目に合わせてやるまでよ」
龍造寺隆信はうすら笑いを浮かべる。その目はとても冷たく、周囲の者たちをゾッとさせるほど殺気を孕んでいた。
「少弐め儂に楯突くか、少弐から奪えるものは奪った。残っているのは僅かな領地と小さな城。残らず押し潰してやろう」
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