第298話 大友家への裁定

上杉景虎率いる上杉勢と大友勢の睨み合いが続いていた。

そんな戦場を上杉晴景と上杉景虎の2人は見つめている。

「如何誘ってみても全く動かんな」

散々、大友側にちょっかいを掛けてみても全く動ことをしない大友勢に、少し呆れ気味の晴景であった。

大友勢は徹底的に守りに入っている。

大友の守りを突破することは容易いが、これを突破するにはそれなりの損害を覚悟しなくてはいけない。

「兄上。門司での戦いで大敗したことが尾を引いているのでしょう」

「敵将は誰だ」

「立花道雪のようです」

「ほぉ〜名将と呼ばれる立花道雪か、ならば油断できんな」

「立花道雪の武将としての名声は都まで流れて来ていますから、確かに油断できない相手」

「ならば、焦らずに一つ一つ切り崩していくとするか」

そこに家臣が駆け寄ってきた。

「博多商人の島井茂勝殿が御目通りを願っております」

「分かった。通せ」

しばらく待つと島井茂勝がやってきた。

「一体如何した」

「上杉景虎様へ立花道雪様より書状を預かってまいりました」

「立花道雪殿からだと」

「博多衆が上杉様についたと話を聞いたらしく、仲介を依頼されました」

上杉景虎は、島井茂勝より立花道雪からと言われる書状を受け取り中身を見る。

「立花道雪が戦もせずに会って話がしたいか」

「立花道雪だからこその判断であろう。門司での一戦でこれ以上は危険だと判断したのだろう」

「話をするなら兄上でしょう」

「儂が来ていることはまだ公にはなっていないからな」

「如何いたします」

「会うだけ会ってみればいい。なんなら儂は景虎の従者のふりをしてついて行くとするか」

景虎は、これ以上言っても無駄だと思い、晴景が従者のフリをしてついて来ることを承諾した。

ただ、もしもの場合は自らを盾にして守ることを密かに誓うのであった。


立花道雪と会談するための場所と日時はすぐさま決まった。

大友勢と上杉勢が睨み合っている中間の草原。

そこに床几を置き、双方五名で会談に臨む。

立会人には朝廷の使者を到着したばかりと言って連れていく。

「大友家家臣、立花道雪と申します。この度は申し出を受けていただき感謝いたします」

「此度の幕府軍総大将上杉景虎と申します」

「噂に名高い毘沙門天殿でござるか」

「人が勝手に言っていることです」

「ご謙遜を、戦では無類の強さを発揮されるとか、此度の戦いで景虎殿の戦巧者ぶりを思い知らされました」

「立花道雪殿は、智仁勇を兼ね備えた名将との噂が都にまで聞こえております」

「それも、勝手に人が言っていること。己自身は目の前のことに真摯に取り組んでいるだけでございます」

「噂通りのお方のようだ。ではそろそろ本題に入りましょうか」

「承知いたしました。大友家としてはこれ以上の戦は望んでおりません」

「戦は望んでいない。大友家の総意ですかな、納得しない者たちも大勢いるのではないですか」

「問題ござらん。異論を抜かす輩は、立花道雪の名にかけて説得して見せましょう。従わぬなら打ち滅ぼすまで」

「主君大友義鎮殿もできますか」

「必ず、説得して見せましょう」

「幕府としても大友家を潰したい訳ではない。しかし、乱世を終わらせるために出した惣無事令を無視して、戦を起こしたなら何らかの処罰を下さねばならん。それをしなければ、再び幕府の権威は地に落ち乱世の世は終わることがなくなってしまう」

「承知しております」

「ならば条件を言い渡す」

「はっ」

「筑前国一国と豊前北半国を幕府管理とする。大友家の領有は、豊前南半国、豊後国、筑後国、肥後北半国とする。惣無事令を守り他国他領への攻撃及び侵略は禁止である。これに違反した場合、大友家が消えることを覚悟すべし」

「承知いたしました。大友家を滅ぼされても文句の言えぬところ、とても温情ある裁定に感謝いたします」

「朝廷のご使者の方もご納得いただけましたか」

朝廷の使者は無言で頷いている。

立花道雪が景虎の後ろに控えている晴景の方を向く。

「幕府管領上杉晴景様とお見受けいたします。此度の温情ある裁定に関して深く感謝いたします」

そう言って頭を下げた。

「なぜ、儂が上杉晴景だと」

「会談の最中、常に上杉景虎殿や他の方々は、貴方様に常に気を配り、何かあれば守ろうとしている姿勢が見えました。そうなれば、考えられる方は将軍様か幕府管領様となります。状況から見て幕府管領上杉晴景様と考えることが一番妥当かと」

「ハハハハ・・・こいつは一本取られたな。景虎の従者のふりをして、立花道雪を観察するつもりが儂の方が観察されていたか。さすがは噂に聞く名将立花道雪。見事だ。景虎が言った通り大友家を滅ぼしたくはない。大友家には九州の安定に力を貸してほしいと考えている」

「承知いたしました。非才な身でありますが必ずや主君を説得し、幕府のお役立たせていただきたく思います」

「期待しているぞ」

会談は終わり双方が引き上げ、大友義鎮は幕府の裁定を受け入れることとなり、後日上杉本陣に出向いて幕府に忠節をつく旨の起請文を出した。

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