第296話 博多掌握

薄暗い早朝に宇佐美定満率いる上杉勢1万は、南蛮船で博多津に乗り付けると、すぐさま船から降りて軍勢を博多の町中へと展開を開始した。

「できる限り物音を立てるな。速やかに動け」

上杉の軍勢は宇佐美定満の指示のもと、事前に打ち合わせしてあった通り、いくつかの小隊に別れて次々に博多の町中へと展開していく。

最初に博多の掌握と抵抗勢力の排除・治安の維持を最優先にしていた。

軍勢の展開は博多商人たちの協力もありスムーズに行われ、博多の中での大きな戦いを起こすことなく掌握することに成功。

「次は、急ぎ荷を降ろせ、博多の掌握が出来しだい外部からの攻撃に備え、陣を構築せよ」

博多津に上杉家の南蛮船から次々に積荷が下されている。

上杉家の者たちは、敵襲があればすぐにでも戦えるようにするために忙しく動き回っていた。

半数者たちは、博多の外からの襲撃に備え陣を構える準備に入っている。

残りは、船の警護と博多内部の治安維持に動いていた。

宇佐美定満率いる上杉勢1万は博多津の確保と治安の維持、周辺諸大名の攻撃があればこれを撃退することを主な任務としており、増援が来るまでは積極的な動きは控えることにしていた。

昔は日本の玄関口として栄えていたが、この頃の博多津は交易港として機能してはいたが、度重なる戦乱で荒廃している。

博多の街中では、また戦乱に巻き込まれ全てが焼かれてさらに荒廃するのではないかと恐れるもの。幕府の力で復興を期待するものなどさまざまな思惑が入り乱れ、期待する眼差しと不安な眼差しが注がれている。

忙しく動き回る宇佐美定満の下に博多商人たちが訪ねてきた。

「島井茂勝と申します」

「お主が島井茂勝と申すか、晴景様より聞いている。博多商人たちを取りまとめてくれるそうだな」

「我ら博多の商人は、幕府管領様のご指示に従います」

「承知した。幕府管領上杉晴景様の考えは、博多津は幕府直轄領として扱い、九州平定が終わった後、博多津の復興作業を開始するつもりであると言われている」

「ありがとうございます。これより我ら博多商人が、九州における幕府管領様の目となり耳となりましょう」

「うむ。期待しているぞ」

「早速でございますが、今こちらに少弐冬尚しょうにふゆひさ殿が向かわれているとの話が届いております」

「少弐冬尚殿とは」

「少弐家は、昔は九州北部一帯を支配した守護大名でございましたが、大内家との長年の争いに敗れ、勢力を大きく減らしましたが家臣団の働きで肥前国に関しては取り返しました。その肥前国を取り戻すことに大きな働きをした家臣が龍造寺家です。その龍造寺家を妬んだ家臣の讒言を真に受け、少弐冬尚殿が指示を出して龍造寺家の大半を暗殺。これに怒った龍造寺家の生き残りの者たちの反撃により、肥前国の大半を失い肥前東部にわずかな勢力を持つだけとなっています」

本来の歴史通りならば来年に龍造寺隆信に攻められて、大名としての少弐家が滅ぶことになる。

「なんと愚かなことだ。功績あるものを碌に調べもせず讒言を真に受け殺すなどとは」

「おそらく、龍造寺を倒すための助力をお願いにくるのでしょう」

「龍造寺を倒すか倒さぬかは、龍造寺の出方しだい。少弐家は関係ない」

そこに上杉家の家臣入ってきた。

「宇佐美様。少弐冬尚と名乗るものが目通りを願っております」

「ほぉ〜、さっそく来たか。博多の衆は席を外してくれ」

「承知いたしました」

博多商人たちはすぐさま立ち上がり出ていく。


しばらくすると2人の人物がやってきた。

若い男と少し歳をとった男だ。

「少弐冬尚と申します。後ろに控えるは家臣の馬場頼周」

若い男が少弐冬尚と名乗った。

「それで少弐殿はここには何のために」

「我が少弐家は元々九州北部一帯を治める守護大名でございましたが、大内家との戦いに敗れて多くの領地を失い、さらに家臣の謀反により残る肥前の大半を失いました。我らは幕府に忠誠を誓いますので、肥前国を取り返すためにお力をお貸しください」

宇佐美定満はしばらく黙っていた。

やがてゆっくりと口を開いた。

「少弐殿、大半の家臣がついてこない状態となり、ほとんどが敵側につくということは、大名としていかがなものか、家臣からの信頼がないと言う事では」

「そ・そのような忘恩の輩ことなど・・・」

「少弐殿!我らは特定の者たちのためにここにきた訳では無い。騒乱の続く九州を平定し直すために幕府の命で来た。惣無事令を無視して戦う者たちを討伐もしくは懲罰を与え、戦を終わらせることにある。我らが龍造寺と戦うことと、少弐殿が国持の大名に返り咲くことは全く別の話である。少弐殿がそれ相応の働きをすれば、可能性はあるであろう。逆に働きが足りないと思われれば可能性は無いことになる。全てはお主の働きしだい」

「働きしだいですか」

無条件では無く、あくまでも働きしだいと言われ苦渋の表情をする少弐冬尚。

「その通りだ。少なくとも、いま少弐殿のおられる肥前国東部の一部は領有については幕府が認めるとこになるであろう。だが、それ以上のことはお主の働きしだいとなる。将軍様や幕府管領様が認めるだけの働きを示すことが必要だ。儂から言えることはここまでである」

宇佐美定満としては少弐家と余計な約束を交わす訳にはいかないため、少弐殿の働きしだいと濁すことにしたのだ。

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