第295話 上杉晴景九州上陸
門司における大友義鎮との戦いを制した上杉景虎は、無理な追撃を禁止。
後続の軍勢を安全に受け入れることが出来るようすることを最優先にしていた。
船で続々と軍勢が送り込まれてくる。
上杉領からは甲斐を預かる真田幸綱の嫡男である真田信綱。相模国北条家からは北条氏政。安房国の里見義弘。美濃国からは明智光秀ら美濃国衆、信濃国、越中国、越後国からも軍勢が到着し始めていた。
幕府管領上杉晴景は、六角家など畿内の大名や国衆の軍勢と共に門司に向かっていた。
上杉晴景の乗った上杉家の南蛮船には、今川義元も乗っていた。
船の甲板上で2人の前には南蛮から購入したテーブルと椅子がある。
2人は椅子に座ると南蛮から購入した葡萄酒をグラスに注いで葡萄酒の味を楽しんでいた。
「上杉家の作った南蛮船は、船足も早く快適だな」
「義元殿。我らの乗った船は特に自慢の一隻」
「上杉家の他の南蛮船より一回り大きいように見える。少し小さくとも良いから一隻欲しいな」
「この戦が終われば1隻お譲りしますよ」
「それは助かる。しかし、これほどの船を使いどこまで交易船を出しているのだ」
「北は、明国北東部の女真族、南は琉球・呂宋(フィリピン)・暹羅(タイ)まででしょうか」
上杉晴景の説明に驚く今川義元。
「想像もつかんな」
「商人達の商いに対する情熱は凄まじいものがあります。商売になると知れば、何処まででも行きますから驚くばかり」
「お主が驚くとは、いやはや商人達の貪欲さが分かるな」
「義元殿も砂糖で貪欲に儲けておるでしょう」
思わず、にやける義元。
「ハハハハ・・・お主に教えてもらった砂糖で儲けさせてもらっている。だが、お主には歯が立たんな。次から次と地域ごとに特産品を生み出すお主は、大名というより商人に近いかも知れんぞ。その発想力は誰にも真似できん。儂はお主の真似をしているだけだ」
「素直に人の真似をすことはなかなか出来ない事ですよ」
「人は少し力を持つと驕る。それが邪魔をする」
「そんな言葉を簡単に言える義元殿もなかなか油断ならん御仁」
「褒め言葉として聞いておこう。お主をまねて陶磁器の窯元と養蚕の育成を始めたところだ」
「なるほど、よく調べている」
「明国からの生糸に取って代わろうとしているのだろう。ならその流れに便乗させてもらう。既に砂糖は、我ら今川と上杉の作り出すものが明国の砂糖に取って代わろうとしている」
「国内で作り出せるものは国内で作り、わざわざ明や南蛮から買う必要は無い」
「窯元は、茶道具で一番の物を作り出すことを考えている」
茶の湯を嗜むようになった義元は、自らの領内で気に入った茶器を創り出したいと考えていた。
「そうくるか、高額で取引される茶道具に目をつけるか」
「勿論、普通のものも作るぞ」
まだしばらくの間、2人は葡萄酒の入ったグラスを片手に商売話を続けていた。
船の上で商売話に花を咲かせているうちに船は門司に到着した。
船から降りると景虎が出迎えに来ていた。
「兄上、義元殿。ようこそ門司へ」
「景虎。大友との戦で大活躍であったと聞いたぞ」
「皆がしっかりと動いてくれたからです」
「景虎の采配が良かったのだ。誇っていいぞ。そして、大友からの反撃はどうだ」
「かなり徹底的に叩きました。それなりの被害でしょうから、大友家はしばらくは動けないかと思います」
「ならば、こちらは粛々と予定通りに進めるまでだ」
「博多は宇佐美定満ら1万の軍勢を送って抑えてあります」
「この先を考えたら博多に支援の軍勢を送っておく必要があるな」
「如何いたします」
「門司に軍勢が揃い次第、上杉から1万を博多に送り宇佐美定満の指揮下に入れ、博多の掌握に勤めてもらう」
「承知しました。準備出来次第、1万の軍勢を送ります」
「そうしてくれ」
「大友家は朝廷に泣きついているでしょうから、そろそろ朝廷から何か言ってくるのではありませんか」
「それなら大丈夫だ。その朝廷の使者も儂らと一緒の船で来ている。朝廷の使者殿は、しばらくは来ていないことにして、温泉でのんびりしてもらうつもりだ。頃合いを見て朝廷の使者が到着したことにして和睦だな」
「やれやれ、兄上。朝廷の使者殿は、せめて別の船にしましょう」
景虎が少し呆れ顔で呟いている。
「問題無い。どうせ、相手にはわからん」
「それはそうですが・・・」
どう見ても攻める側と仲裁する側がグルになっている構図である。
思わずため息をつく景虎であった。
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