第294 門司攻防戦(2)
大友義鎮率いる大友勢は、二度上杉勢を蹴散らし否が応でも気勢が上がっている。
大友の物見が戻って来た。
「この先に、上杉の簡易的な砦がございます」
「どの程度の軍勢がいる」
「およそ3千ほどと思われます。周囲に簡単な柵を拵えておりますが、急いだためか些か脆いように思われます。おそらく我らの進軍に慌てての急拵えのためかと」
家臣達からの報告を聞きながら、大友義鎮はしばらく考え込む。
「些か簡単すぎる。噂に聞く強さには程遠い。噂ではもっと強かで苛烈な強さであるはず」
腕を組みながらジッと動かず考えている。
「殿。噂など所詮当てにならぬもの。実際よりもかけ離れた強さにして人は面白おかしく伝えるものです。奴らはこの地には疎く、土地勘も無い。ここで一気に叩くべきです」
「殿。敵をここで叩き、出鼻をくじくことこそ重要でしょう」
家臣達の言葉を受け大友義鎮は決断を下す。
「よし。敵の砦を叩く。ただし、伏兵には十分注意を払え」
「「「「承知いたしました」」」」
「全軍で上杉の砦を叩きつぶせ」
「「「「オー」」」」
大友勢は街道を駆け抜け、一気に上杉の砦に襲い掛かる。
作られてあった柵は脆く、大友勢の一押しで簡単に倒された。
柵が倒されると3千人の足軽達は一気に浮き足立ち我先に逃げ出す。
ほとんどが門司周辺で雇われた足軽達であり、忠誠心は全く無いため持ち堪えることができないでいた。
砦の中は大混乱状態となる。
次々に切り倒される足軽達。
その中を必死に逃げ出す足軽達。
半刻も持たずに砦は壊滅した。
幕府軍相手に連戦連勝となりますます高揚感に包まれる大友勢。
用心深い大友義鎮も戦に強いと聞いていた幕府軍に連戦連勝のため、家臣達同様に勝利の高揚感に包まれていた。
大友義鎮の顔も自然と笑みが浮かんできていた。
「フッ・・・噂に聞く幕府管領殿の軍勢も大した事は無いな。このまま一気呵成に叩き出して、有利な条件で和睦も可能かもしれん。皆の者、敵が立て直す前に一気に叩くぞ。いくぞ」
大友勢はすぐさま寸軍を開始。
顔には自信をみなぎらせている。
しばらく進むと物見が戻ってきた。
「この先に、上杉の砦がございます。今度は柵が二重に作られております」
「柵が二重か」
「殿、先程のように貧弱な柵しか作れない連中ですぞ。無い知恵で柵を二重にしたのでしょう。柵が二重になったところで問題ありますまい」
大友義鎮は先程の戦いで簡単に倒された柵を思い出していた。
「それもそうだな。いいだろう、このまま一気に踏み潰してくれよう。進め」
大友勢は砦の見えるところまで慎重に進んできたところで、砦に向かって一斉に襲い掛かる。
外周部の柵を一気に押し倒し、二つ目の柵に取り掛かろうとしたところ、柵はびくともしない。
その時であった。
戦場に鳴り響くけたたましい轟音。
上杉勢鉄砲隊による一斉射撃の開始であった。
砦の中からおびただしい数の鉄砲が火を吹いている。
大友勢の右手からも鉄砲の音が鳴り始めた。
2千挺の鉄砲による前と横からの十字砲火である。
軍勢の後方にいた大友義鎮は信じられないものを見ている気持ちであった。
「誘い込まれたのか・・・」
鳴り止まぬ鉄砲の音。
次々に倒れていく家臣達。
大友勢の後方に爆発音と同時に巨大な土煙が舞い上がる。
上杉の大砲による攻撃が始まった。
次々に打ち込まれる大砲。
同時に、鉄砲による攻撃が大友本陣にも届き始めた。
既に多くの者達が満身創痍である。
鳴り止まぬ大砲と鉄砲の攻撃が急に止み静寂が訪れた。
多くのものが鉄砲による手傷を負っていた。
突如、上杉の砦の門が開かれ、馬に乗ったひとりの武将が進み出てきた。
戦場にその男の声が響き渡った。
「我こそは此度の総大将上杉景虎なり、世を乱す朝敵・幕府御敵は兄である幕府管領上杉晴景に成り代わり、この景虎が残らず成敗してくれる。覚悟するがいい!」
景虎は太刀を抜き高々と掲げる。
同時に砦から上杉の軍勢が次々に出てくる。
「いくぞ、遅れずについて来るがいい」
上杉景虎が誰よりも先に先陣を切り大友本陣に向かって馬を走らせ始めた。
上杉景虎を追いかけるように多くの上杉の軍勢も大友本陣に向かって走り始める。
騎馬武者と長槍隊が景虎に置いて行かれまいと太刀を振るい、槍を振るいながら全力で駆けていく。
大友義鎮は信じられない気持ちで見ていた。
総大将が自軍の誰よりも先に先陣を切って敵陣に突っ込んでくるのだ。
「あ・ありえん。ありえん。奴はおかしいぞ。奴は総大将だぞ。総大将が・・敵陣に先陣を切って突っ込んでくるなど・・ありえん」
上杉景虎の勢いに大友勢は戦うことを忘れ、まるで道を開けるかのように左右に逃げ、本陣への道が開けていく。
その光景を呆然と見ている大友義鎮。
「殿・・・殿・・・・殿」
「あ・・ど・どうした」
「危険です。お味方は総崩れ、急ぎ退却を!」
「そうだ。そうであった。引け・・引け引け」
大友勢は、大友義鎮を守り退却戦を始めた。
上杉景虎はある程度追ったところで追撃することをやめ、逃げていくもの達を放っておくのであった。
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