第287話 南蛮人商人と宣教師の思惑

豊後国府内は,大友氏が鎌倉時代の貞応元年(1222年)豊後国守護に任じられて以来約300年に渡り豊後国の中心として、また大友氏の拠点として栄えてきた。

昨年には、日本初の西洋医学による病院が設立され活動を始めている。

また、明や南蛮・琉球からの多くの交易船がやってきて交易都市として発展していた。

豊後府内の街中を多くの異国の人間達が行き交っている。

さまざまな衣装。

さまざまな肌の色。

さまざまな国の言葉が飛び交っている。

街中では東南アジアからもたらされた陶磁器や香辛料を扱う店も見受けられる。

そして,いま1隻の南蛮船に手鎖で繋がれた二十人ほどの男女が無理やり乗せられていく。

南蛮人の商人が買い集め、奴隷にされる日本人達であった。

いくら泣き叫ぼうが,また逃げようとしても棒で殴られるか鞭で打たれるだけ、助けてくれるものは誰もいなかった。

それを見る南蛮人の商人達は,まるで家畜を扱うかのような目で、その様子を見ていた。

その場には伴天連の宣教師達もいたが,特に関心も示さずにそれが日常生活の中で、ごく当たり前の出来事のように振る舞い商人達と談笑している。

南蛮人の商館の庭にテーブルを出して、商人達と宣教師達はお茶を飲みながらこの国の情報交換をしていた。

「どうやら皇帝(将軍足利義輝)がこの豊後に軍勢を送り込んでくるようだ」

南蛮人商人や宣教師達は、日本の身分をヨーロッパ社会の身分に当てはめて見ている。

天皇は教皇。

将軍は皇帝。

大名は国王。

「皇帝が軍勢をですか。なぜです」

「どうやら、戦の禁止令を守らぬ九州の王達を討伐するつもりらしい」

「それは困る。そんな事になったら、戦乱で当分は布教ができません」

「我らが日本人を奴隷として購入し、連れて行くこともなぜか皇帝は知っていて、それをやめさせろと九州の王たちに通達を出している。それも理由のひとつのようだ」

商人達は忌々しいと言わんばかりにため息をつく。

「まだ大した規模で奴隷を購入していない筈なのに、なぜ遠く離れた都にいながら知っているのだ。気づかれるほどの規模でやっていないはずなのになぜだ」

「理由はどうあれ、気が付かれたのは事実。この国の奴らは頭も良くて勤勉なんだよ。せっかく質の良い奴隷を手に入れることができる国が見つかったのに・・・」

「そんなに皇帝の軍は強いのですか」

「少し前までは力の無い名前だけの皇帝だったが、ある人物が皇帝を補佐してから急激に力を取り戻し、いまではこの国の多くの王達に頭を下げさせて忠誠を誓わせている」

「ああ、噂に聞く皇帝を補佐する宰相殿(幕府管領)のことか」

「我らが鉄砲を持ち込むよりも遥か以前に鉄砲を手に入れ自国で大量生産。さらに改良を加えて鉄砲を組織的に使い圧倒的な強さを持っていると聞いている」

「商売にも詳しいと聞いているぞ」

「多くの金銀山を自国内に持ち、独自に金貨・銀貨を発行して、さらにシルクの生糸や砂糖もどうやら大量に生産しているようだ。これを見ろ」

商人の男が上杉領で使われている小判と銀銭を懐から出した。

「宰相殿の国で使われている金貨と銀貨だ。かなり品質が良い」

「これはかなりのものだな」

「これはぜひとも、親しくなって商売をさせて欲しいな。宰相殿の交易路に潜り込んでみるか」

「私は、皇帝の都で布教をさせて欲しいです。そして教会の歴史に名を残したい」

「皇帝と宰相殿は、宣教師を嫌っていると噂されている。都での布教はかなり難しいのではないか」

「ですが、本国から遠くここまで来て諦める訳には」

「我ら商人と宣教師は、本国から見れば植民地を作るための尖兵のようなものだ。我ら商人と宣教師殿が相手国の内側にしっかり食い込み籠絡したら、本国から軍勢が来て丸ごとその国を植民地に変えて手に入れる。そして、ますます我らも本国も儲かり繁栄する。そうやって多くの国を植民地に変えて手に入れてきた。どうやらそれに気づいている様子がある」

「まさか、いくら何でもそこまでの事を分かるはずが」

「宰相殿を侮るのは危険だぞ」

「そうだ。独自に多くの大型船を持っていて、独自の交易路を持ち、我らの使う船と同じものを既に作っている。交易路を通じて情報を手に入れていると考えた方がいいだろう。さらに宰相殿は、鉄でできた船を持っていると噂で聞いた」

「流石に鉄の船は無いだろう」

「いや、昔数隻の鉄の船を使い、海戦で敵船団を壊滅させたと聞いた」

「本当なのか」

「敵船団が油や火矢を使ったが燃えることがなかったと言うから本当なのかも知れん」

「こんな世界の東の外れに、なんでそんなバケモンみたいな奴がいるんだよ」

「うまく立ち回り敵対しなければ問題無い」

商人達と宣教師達の情報交換はさらに続いていくのだった。

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