第280話 完全包囲
本願寺では,顕如の命を無視して勝手に幕府側に夜襲を仕掛けた挙句,大敗をした事に衝撃が走っていた。
周辺は既に幕府側が包囲を始めている。
何度も釈明の使者を出すが,朝敵に話すことなぞ無いと追い返される状況が続いている。
密かに援軍を呼ぼうと使者を出すが,周辺は既に取り囲まれており,囲みを突破できずに戻るしかない状況。
「勝手に攻めて大敗。挙げ句の果てに朝敵に認定されてしまうとは」
悩める顕如の下に1人の坊官が戻ってきた。
「申し訳ございません。京の朝廷にお願いしようと川を下り海に出て大きく迂回を考えましたが,川筋周辺や海にまで幕府側の厳しい監視の目があり,発見されてしまいました。私以外のものは全て捕まってしまいました」
「そうか。苦労をかけた。休んでくれ」
そこに別の坊官が入ってきた。
「周辺を調べに出ていたものが戻ってまいりました」
「どうであった」
「畿内中の全ての大名や国衆に動員令が出され,我らの各地の拠点は全て武装解除され幕府の監視下に置かれているそうです」
「なんと!」
「さらにここに10万近い軍勢が集結しているそうです」
「10万だと・・・・・」
「兵糧はあとどれくらいある」
顕如の言葉に坊官が答えた。
「あと,2日でしょうか」
「2日か・・・」
顕如の顔には苦悩の表情がありありと浮かんでいた。
そこに,1人の坊官が慌ててやってきた。
「騒がしい。どうした」
「幕府より使者が参りました」
「分かった。ここに通せ」
暫くすると松永久秀が入って来た。
「お初にお目にかかります幕府より大和国守護を任されております松永久秀と申します」
「顕如である」
「この度,幕府より使者を仰せつかったため参りました」
「一国の守護が使者とは」
「何も問題ございません。守護ではありますが将軍家と管領様の忠実なる家臣ですから,命じられたら粛々と行うのみ」
「フム・・ならば言わせてもらおう,朝敵などとは言いがかりも甚だしい。一部のもの達が勝手にやったことだ」
「ほ〜・・・そのような詭弁が通じるとでも。これだけ完全武装していて戦いで負けたら人のせいですか。戦ったもの達が聞いたら悔し泣きしますな」
「なんだと」
「私から申し上げることは,完全降伏なされませ」
「ふざけるな。そのような事は」
「もはや終わっております」
「終わっているだと」
「幕府管領上杉晴景様は何年も前から一向一揆完全制圧のため,さまざまな手を打っておられます。畿内と周辺を将軍家直轄領に変え将軍家を強化。本願寺を包囲した場合,海からの兵糧を入れさせないため,水軍の強化と強力な水軍を持つ毛利家に忠誠を誓わせる。さらに領民の生活を豊かにして一揆に加わらせないようにする。もう一つ言えば,商人達を従わせること」
「領民を豊かにすることと一揆がどう関係するのだ」
「お忘れのようだ。一揆はなぜ起ったのですか,重い年貢に生きていくことができないから,生きるために一揆が起きたのではありませんか」
「・・・・」
「ならば,反対に豊かであればどうなります。豊かさを知れば人はそれを守りたいと思い。命懸けの戦いなんぞしなくなる。豊かな生活を脅かすものが相手なら戦うでしょう。ここ数年,幕府のお陰で豊かさを得た領民は,幕府相手にどこまで本気で戦いますかな」
「・・・・」
「各地の拠点は武装解除され,幕府の監視下に置かれています。しかし,信徒達が武装蜂起したとは一切聞こえて来ません」
「どうしろというのだ」
「完全降伏。詳しく言えば,教団を5つに分割していていただきます」
「そんなことができるか」
「できないと言われれば,話しはここまでとなります。あとは自由になされませ。10万の軍勢相手にどこまで持ちますかな。おそらく,10万の軍勢は何もせず,管領様の戦い方を一方的に見せつけられることでしょう。そして,あまりの凄まじさに畿内の全ての国衆は恐怖を覚え,この先も幕府に逆らう気持ちは一切起きないようになるでしょうな」
「それは一体」
「明日,同じ時刻に参ります。その場が最後の機会でしょう。良い返事を期待しております」
松永久秀は,それだけ言い残して帰っていった。
翌日になり,松永久秀は再び本願寺にやってきた。
顕如の顔には疲労の色がありありと浮かんでいる。
「返答はいかに」
「分けるのは2つまでだ」
「5つと申したはず」
「2つまでだ」
「5つと申したはずです」
「これ以上は譲れん」
松永久秀は暫く考えたフリをする。落とし所は最初から管領上杉晴景と打ち合わせ済み。
「あくまでも2つまでと言われるならば条件がつきます」
「条件だと」
「2つのうち一つは顕如様が門主。もう一つの方の門主は幕府で決めさせていただき,さらにそれぞれの下に入る寺を幕府が指定いたします。数はできるだけ同数になるようにいたします。これでもダメらな後の決着は戦にてとなりますな」
「分かった。その条件を飲もう。その代わり朝敵を外し,包囲を解いてもらいたい」
「朝廷の使者がきておりますので,朝廷の立ち会いのもと誓詞をを取り交わし,朝廷に証人となっていただきます。よろしいですな」
「それでいい」
「二つに分割して,一つは東本願寺,もう一つは西本願寺と呼びましょうか」
一向一揆は完全に抑え込まれ,本願寺を2つに分割することが決まった。
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