第277話 仕掛け
三好長慶は,本願寺からさほど遠く無い場所に城を作ることを決めすぐさま築城を開始していた。
同時に,湿地帯の水路も同時に作り始めていた。
今回の工事には畿内の大名や国衆たちも手伝い普請として入っている。
そんな中,本願寺側から横槍が入っていた。
「ここに城を作るなど,我らに対する嫌がせ」
使者としてきた坊官達が長々と騒ぎ立てている。
三好長慶はそんな坊官たちの言い分に呆れていた。
「城がなぜ嫌がらせなのか理解できん。そもそも,今の摂津国は将軍家直轄領であり,この三好長慶が嫡男である三好慶興が守護代として補佐している。此度の築城と湿地の水路工事は幕府の決定である」
「我らを攻撃するために作るのであろう」
「攻撃のため?何のことだ。この城は淀川下流に広がる湿地を街と田畑に変える工事の指揮をするためのもの。工事を指揮するための城にすぎんのに,この程度の城で怯えて文句をつけるとは・・・やましい事でもあるのか?」
肘掛けに手を置き嘲るように笑みを見せる。
築城中の城はまだ出来上がっていないが,工事中でも分かるほど,通常よりも巨大な城になることが見てとれる。
そして,築城速度が異常に早いことも脅威を煽る一因となっていた。
「我らを愚弄するのか,やましい事など,あるはずがなかろう」
「平和になった畿内で一揆を起こし,騒乱でも起こすのか,それとも工事をしている者達を背後から襲うのか。このようなことで文句を言って来るとは,もしかして裏でよからぬ企みをしているのではないか・・やましいところがなければ,文句を言う方がおかしいだろう」
「このような巨大な城を作る方がおかしい。本願寺から見える場所にこのような巨大な城を作ることは我らに対する敵対行為だ」
その言い分に,思わず大きくため息を吐く。
「ほ〜,随分偉そうなことをほざくではないか。では聞こう,摂津国はいつからお前達の国になったのだ」
「そ・・それは・・・」
坊官達は思わず返答に窮する。
「いつからお前達が摂津国の守護になったのだ。いつ幕府から摂津国守護に任じられたのかこの三好長慶に教えてくれんか。儂は幕府管領上杉晴景様の側衆として使えているがそんな話は聞いたことは無い。いつからそのようなことになったのだ。教えてもらいたい」
「・・・・・」
三好長慶の言葉に返答に困る坊官達。
「ふん,返答できないだろう。摂津国はお前達の国では無い。文句をつけることがおかしいだろう。ならば,お前達の足りない頭でも分かるように,もう一度言ってやろう。ここ摂津国は将軍足利義輝様の所領であり,此度の築城と水路工事は幕府の決定事項である。そこに文句を付けるとは,幕府に対する叛逆行為であり,将軍足利義輝様への叛逆である。さらに突き詰めていけば,足利義輝様を将軍に任じられた朝廷への叛逆である。返答はいかに」
三好長慶が語気を強め坊官達を睨む。
「そ・そ・・そのようなつもりは」
「ならば,さっさと帰ってもらおうか。くだらぬことで文句を言いにくるお前達と違い,儂は忙しいのだ。おい,お帰りになるそうだ。城門で塩を撒いておけよ」
「お・・おのれ〜!」
悔しさで呪い殺さんばかりの視線を向けながら坊官達は帰って行った。
坊官達が出ていくと長慶の息子で三好家を継いだ三好慶興が入れ替わるように入ってきた。
「父上,坊官達が凄い形相をしておりましたぞ。とても御仏に仕えるものとは思えぬほど」
「予想通りに動き出してきたな。全く生臭坊主どもが」
三好長慶は,坊官達が出ていくと肘掛けに体を預け足を崩していた。
「どうされるおつもりで」
「晴景様の御指示のまま予定通りに進める。築城はまず見た目の部分の速さを優先。同時に水路の掘削も同時に進める。ただし,物見は多く放て。奴らが動き出しても対処できるようにしておくことが重要だぞ」
「承知しました。父上はどうされます」
「晴景様に奴らが動き出して来たことを報告しておく」
「承知しました。しかし,面白いように予想通りに反応してきますな」
「晴景様が事前に策を仕掛けていることも大きい」
「事前に策をですか」
「何年も前から晴景様の策は動き出している。既に本願寺に味方する大名は近隣に存在していない。瀬戸内から摂津までの海路を事実上、晴景様が抑えた。今は本願寺に味方しそうな商人を本願寺から引き剥がしにかかっている」
「ですが,商人は簡単にはいきません」
「だからこその神戸津だ」
「摂津と播磨の境界にあり,晴景様が作っている湊ですね」
「石でできた大きな防波堤が出来上がりつつある。境を超えるかなり巨大な湊になる。そして,南蛮船や明からの船は堺より先に到着することになる」
「まさか・・・」
「堺の商人からしたら脅威だろうな。しかも,晴景様に近く、本願寺とは関わっていない商人は,既に店と船を入れることを許されている」
「神戸津は,商人達を試すためのものですか」
「神戸津は,南蛮船や明船だけでは無い。山名・尼子・毛利が幕府が降っていることから,蝦夷や越後からの船が一切の邪魔がなく神戸津に来ることになる」
「今の堺を超える発展をすることは確実か」
「商人からしたら,何としても入りたいだろうな。だが,店を構えるのに条件がつけられる」
「本願寺に関わるな・・・ですか」
「その条件さえ飲めば,好条件で湊に入れる。既に作られている倉庫の賃料は格安だ。税も他に比べて割安。本願寺に組みする連中は悩んでいることだろう」
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