第274話 足利幕府の布石

将軍家の相続に関する法案を骨子を考え,上様に持って検討してもらうことになった。

室町御所の奥で将軍足利義輝と幕府管領上杉晴景は,今後のことを話し合っていた。

「将軍家の継承順位を法で決めてしまい争いを防ぐか・・」

「全ての争いを防ぎ切ることは難しいかもしれませんが,かなり効果はあるともいます。そもそも乱世の始まりは将軍家9代目をめぐる争いが発端。細部は事務方に考えさせることにして,布告前には朝廷にも伝えておく必要があります。将軍宣下を出すのは朝廷ですので,継承順位の決め方を伝えておいて意思の統一を図っておく必要があります」

「分かった。それに関しては問題無いだろう」

「次に食糧の増産体制を整える必要がございます」

「今のところ飢饉も起きておらんから問題無いのではないか」

「将来に備えることも重要でございます。我が上杉領内に比べると収穫量が低いように思います。新田の開発と新しい作物の普及。周辺河川改修も重要」

「そこまでやらねばならんのか」

「将軍家の領地は200万石になろうかという所まできております。さらに,生野銀山が手に入り,石見銀山は半分の利権を手にしました。増えたものを贅沢などに消費するのでは無く,この時に将来への布石を打たねばなりません。足元を強化は必須でございます。増えたものを将来のために使うのです。上様は,少し前までは畿内を彷徨い苦しい思いをなされておられました。それに比べれば皆が心配せずに暮らせることは何倍も尊いではありませんか,皆が戦乱を心配せずに済むようにするために増えたものを将来の為に使うのです」

将軍足利義輝は,上杉晴景の言葉を聞きゆっくりと頷く。

「そうか。そうであったな。少し前まで,我らはその日暮らしのような有様であった。戦乱に追われ畿内を彷徨っていた。直轄領や銀山を手に入れ少し浮かれていたかもしれん。我らの目指す道は,まだ道半ばであったな」

「はい」

「分かった。晴景の意見を全面的に取り入れ食糧増産に伴うことを実施していこう」

「ありがとうございます」

「次に交易や産業育成でございます」

「買うばかりでは無く,南蛮人たちが銭を払ってでも買いたいものを作り多く買わせることが重要だと申していたな。それと南蛮人達を信用しすぎるのは危険だとも申していたな」

「はい。買うばかりでは国内の金銀が出ていくばかり。金銀も無限に湧いてくるわけではありません。それに南蛮人は日本人を奴隷として異国に連れていく恐れがございます」

「なんだと!」

「既に九州ではその動きが出始めております。大名が交易のために自領の領民を売る動きがあると聞き及んでおります。南蛮人の商人たちが積極的に動き始めているようですし,南蛮人達の宗教家達は大層なことを言いますが全て見て見ぬ振りをいたします」

「なんと言うことだ」

乱世の世である以上,戦に負けたて捕らえられた武家の者達や領民などを売り買いすることはある。

売りに出され者達を家族が買い取ることもあり,家族の元に帰れる可能性はある。

だが,異国となれば帰ることは不可能だ。

「西国の大名達に触れを出す必要がございます。日本の領民を異国に売り渡すことは禁止であると御内書を出すべきかと」

「分かった。儂の名で御内書を出そう。そのような非道な真似は断じて認めることはできん」

「御内書が出ればある程度は牽制できます」

「ある程度と言うことは,完全には出来んということか」

「欲に取り憑かれた者達は,誤魔化そうとあの手この手と策をめぐらすものです。ですが,上様から西国大名に御内書が出されれば,御内書と惣無事令の2つを使い西国大名を締め上げる大義名分になります」

「なるほど,特に九州の大名を締め上げるための大義名分を増やすということだな」

「御内書が出された後,しばらく様子を見てその後,九州平定に乗り出すことになります。それにそれまでの間,しばらくは兵を休ませることができます」

「ならば四国はどうする」

「四国は,三好勢に任せようかと考えております。九州は幕府軍と毛利・尼子・山名で取り掛かれば良いかと思います。瀬戸内の海は,毛利と我らの支配下にあります。物資や兵の移送には問題無いかと思っております」

「分かった。そのことは,晴景に任せよう。存分にやってくれ」

「承知いたしました」

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