第271話 山名への警告(1)

姫路城に滞在している上杉晴景の下に但馬国守護である山名祐豊やまなすけとよから使者として、実の弟である因幡国守護代山名豊定がやってきていた。

山名豊定は、上杉晴景を前に言い訳を並べている。

「ほ〜自分達に非がないと言いたのか」

「そ・・・そのような訳では無いのですが」

「先ほどからの言い分を聞いていれば、自分達に非が無いと言っているに等しいであろう。さらに生野銀山を寄越せと」

「いえ・・・生野銀山は元々我らの・・・」

山名豊定の額に薄らと汗が浮かんでいる。

「播磨国に火事場泥棒にやってきたのは誰だ」

「火事場泥棒などとは・・・」

「幕府の名のもとに東播磨の別所に警告を行い、警告を無視したため我らが播磨平定に乗り出したのだ」

「我らは、幕府管領様をお助けしようと参上したところ、行き違いで戦いとなってしまったのです。幕府に楯突くつもりはございません」

「ハハハハ・・・詭弁ばかり言いおって、我らは上杉の旗を数多く掲げていた。山名の軍勢も上杉家と分かっていたはず」

「そ・・それは先鋒を任せた太田垣輝延が確認もせずに先走り攻め込んだもの。失態を犯した太田垣輝延は切腹の上、その首をお持ちいたしました」

「ハァ〜・・太田垣も哀れよ」

「先走ったばかりに・・・」

「そうでは無い」

「はぁ?」

「太田垣は騙し討ちで首を刎ねられたのだ」

「エッ」

「山名豊定。お主は切腹を見たのか」

「その時は因幡におりましたため」

「そもそもお主は因幡の守護代。戦いの場も、太田垣が切腹した場にもいなかったことは、儂は知っている。さらに生野銀山を我らが接収した時も当然因幡にいた」

「・・・・・」

「それゆえ本当の事を話してやろう。我が実弟上杉景虎率いる軍勢は、但馬国から山名勢が来ることを知り、東播磨の国境手前で陣を敷き待ち構えていた。山名勢は国境を越え、東播磨に侵入。その時、我らの旗印をしっかり確認した上で弓を射かけてきた。四半刻(30分)近く睨み合っていて、気づかぬことがあるのか。お前たちの軍勢の目は節穴だらけなのか。さらに矢を放った後に、我らの旗印に将軍家の旗印があることに気が付き慌てたようだぞ。まあ、その場にいない者に言っても何も言え無いだろうな」

「それは本当でしょうか」

「事実だ。さらに我らの軍勢が生野銀山に到着した時は、山名の軍勢は持てるだけの銀を持って逃走した後で、城は空っぽだったぞ。そして、お主が此隅山城に呼ばれ到着したの前日に太田垣が呼ばれ騙し討ちにされ罪を着せられたということだ」

「そんな・・・」

「事実だぞ。はっきり言っておこうか。山名祐豊の周りには我に同心する者が多数入り込んでいる。奴の一挙手一投足、発言のひと言残らず儂の元に届く。手段を選ばんのなら簡単に殺せる。簡単に首をとることができる。そして、今頃山名祐豊は何をしていると思う」

「・・・・・」

「領民たちを無理やり徴用して此隅山城の改修を必死にやっているぞ。これのどこに正当性があるのだ」

「それは」

「既に、尼子は領地を大幅に減らしたが幕府に恭順を願い出ている。毛利も幕府に全面的に従うと言っている。丹波・播磨を含む畿内は将軍家直轄領。孤立無援だ。どう戦うのだ。籠城したいなら好きなだけするが良い。アリの這い出る隙間も無いほどに取り囲み、何年でも包囲してやるぞ」

「お・お待ちください」

「因幡国守護代山名豊定に聞こう。お主は幕府と戦うつもりはあるのか、戦うならこのまま因幡国に戻り戦支度をして待っているがいい。因幡国は毛利・尼子そして備前・備中国衆が相手をする。但馬国は、播磨と我ら、そして畿内の国衆が全て相手になる」

「お・お待ちください。決してその様なつもりは」

「因幡国守護代山名豊定」

「は・はい」

「お主はどうするのか、因幡国をどうするのかこの場で返答せよ」

「この場でですか」

「幕府に従うのか、従わないのか」

山名豊定の額の汗がいつの間にか頬をつたい床に落ちている。

「因幡国は幕府に従います。今後幕府に叛くような真似は致しません」

「ならば、熊野権現の起請文を書いてもらおうか。それと此隅山城に使者を出し、幕府に従い城を開城せよと伝えよ」

「承知いたしました」

山名豊定は深々と頭を下げていた。

「ああ・・そうだ。言い忘れていた。此隅山城本丸にある蘇鉄の木の根元を掘ってみろと山名祐豊に伝えてくれ」

「蘇鉄の木の根元でございますか」

「そうだ」

上杉晴景は笑みを浮かべながら山名豊定に伝えた。

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