第270話 幕府管領御一行様
幕府管領上杉晴景は、赤松晴政の案内で播磨国印南郡の鶴林寺を訪れていた。
赤松晴政の案内で境内に入ると多くの僧侶が出迎えた。
鶴林寺の僧侶達総出のようだ。
将軍に次ぐ地位の幕府管領なんて、早々来ることは無いだろうから寺側の緊張がうかがえる。
ここ鶴林寺は、広大な寺領を持ち2万5千石もの寺領を持っている。
僧侶も300人を数えるが、乱世の世が繁栄に影を落としていた。
周辺の寺も戦乱で焼かれるなどしていたためだ。
幕府が播磨を平定して、備中まで幕府が抑えることになり、今後のことを考え判断した寺側が幕府に対して寺領の保護を求めてきたため、政に介入しないこと、僧侶としての戒律をしっかりと守ることの2つを条件に、幕府管領上杉晴景の名の下に現在の寺領保護の裁定を下していた。
その時、聖徳太子ゆかりの伝統ある鶴林寺を見たいと申し出たら招待を受けたためやってきた。
「晴景様、この鶴林寺は聖徳太子様ゆかりの寺と言われております・・・・・」
赤松晴政がまるでツアー添乗員のように鶴林寺の説明を熱心に続けている。
熱心に寺の説明をする赤松晴政の後ろから、ゾロゾロと皆で歩いている。
まるで観光客の団体、幕府管領御一行様ツアーのようだ。
そんな状態で皆でゾロゾロと歩きながら進んでいく。
話を聴きながら大門をくぐり、三重塔を横目に見ながら本堂に向かう。
本堂に薬師如来様が祀られているそうだ。
本堂入り口にお釈迦様の弟子びんずる尊者が祀られている。
撫で仏と言われるほど、撫でると健康にいいらしいというので、とりあえず全身を撫でておこう。
念入りに全身をしっかりと撫でておく。
すると一緒にきた景虎、三好長慶、家臣達が順番に真似を始める。
現代の修学旅行の生徒でもあるまい、儂の真似をしなくともいいと思うのだが。
皆熱心に撫でている。
やはり健康は時代を越えての普遍の悩みなのだろう。
そんな事をしながら多くの僧侶と共に本堂に入る。
残念ながら薬師如来は秘仏で公開されていないそうだ。
だからと言って力を傘に見せろなんて無粋な事はしない。
一応幕府管領職であり振る舞いには気をつけている。
ここには、飛鳥の世からの人々の純粋な思いが詰まっているように思える。
そこを無理やりに踏み躙るようなことはしたくない。
見え無い秘仏に向かって早く乱世が終わる事を祈っておこう。
しばらく皆で祈っていた。
薬師如来だから病を癒してくれることに特に力を示されるそうだ。
その本堂の横に聖徳太子が祀られている太子堂がある。
檜皮葺の建物。
晴景一行は、聖徳太子が祀られている太子堂に案内される。
乱世の世になるまでは、都の貴族達が太子信仰のために盛んに訪れていたらしい。
だが、乱世の世にかわり危険を冒してまでは来なくなった。
早い話しが都の貴族達の懐具合が寂しくなったのが一番の原因だと思う。
ここまでの旅には、それなりの銭がかかるからな。
だが、畿内の戦もほぼおさまってきている。
朝廷にも幕府から領地を与えたため、そのうち少しづつ人がやって来るようになるかもしれ無いななどと、そんな俗世での事を思いながら大師堂に入る。
中央には釈迦三尊像があり、南東の隅に厨子がある。
この部分の壁に聖徳太子の像が描かれ、秘仏として厨子に覆われているそうだ。
しばらくこの空間に佇み、多くの人々が平和と繁栄を願ってきたことに思いを馳せる。
一日も早く乱世が治まり戦のない時代にしたいものだと祈りにこめる。
この後寺側の簡単な饗応を受けた。
寺の近くに味噌と麹の名職人がいるそうだ。
その職人は実にいい仕事をするそうだ。
職人の作った味噌を使った精進料理が出てきた。
その職人の味噌を使った精進料理をじっくりと味わいながらいただき、最後にその職人の麹を使った甘酒をいただいた。
「晴政殿、この味噌を使った精進料理と麹を使った甘酒は美味いな」
「東播磨自慢の味噌と麹で、清夫と申す職人が作ったそうでございます」
「なるほど東播磨自慢の味ということか
「儂が美味いと言っていたと伝えてくれ」
「承知いたしました。きっと喜ぶと思います」
満足した一行は姫路城へと戻っていった。
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