第263話 虎の威を借る狐
上杉晴景の前に播磨守護の嫡男である
2人は突如、上杉晴景の下に押しかけてきたのだ。
播磨国内で最も勢力を持っていた別所家が将軍家に降ったと聞いて、口先で東播磨を手に入れて幕府側を追い出そうと言う姑息な考えが透けて見える。
「播磨国は我らにお任せください。しっかりと運営してみせます」
赤松義祐はまだ20歳、浦上政宗は30歳半ばと聞いている。
若さ故か2人とも野心剥き出し、隠そうともしていない。
そして、すっかり赤松家当主と播磨国守護のつもりでいる赤松義祐の言葉に、上杉晴景は呆れ果てていた。
「ならば、お前達に尋ねよう。お前達が播磨国を領有させろと言う根拠はなんだ」
「赤松義祐様は赤松家当主であり、さらに守護代であるこの浦上政宗が支えているのです。問題ありません」
浦上政宗の言葉も上杉晴景を苛つかせていた。
「ならば、幕府が認めた播磨守護は誰だ」
「我が父である赤松晴政ですが、父はもはや守護としては無能。国衆は誰もついて来ませんよ。尼子や毛利にいいようにやられているだけ、守護として相応しくありません。ですので、この義祐を正式に播磨国守護に任じていただければ全て丸く収まります」
「ハハハハ・・・父を支えずに、自分勝手な理由で謀反を起こして父である播磨守護・赤松晴政を追い出しておいて、播磨国守護に任じろと言うか」
余りに勝手な言い分に思わず笑ってしまった上杉晴景。
「何も不思議はないでしょう。今まで多くの国で同じことが起きて、幕府は追認してきたではありませぬか」
「ハァ〜ここまで愚かとは」
「愚かとは、一体・・」
顔色を変える赤松義祐。
「10年前と今の将軍家は既に大きく姿を変えている。過去の悪しきしがらみを順次切り捨て。直轄領を増やし、権威と力を大きく増している。それがわからぬかほどの愚物か、ならば将軍家の目指すものなんぞ分かるまい」
「我らを愚弄するか」
「晴政!出て参れ」
上杉晴景に呼ばれ、奥から播磨国守護である赤松晴政が出てきた。
赤松晴政の姿を見て驚く2人。
「なぜ、ここに・・・」
「儂は、幕府管領上杉晴景様に呼ばれ、昨日ここに来た」
播磨国守護である赤松晴政は、東播磨を別所に奪われ、息子に謀反を起こされ娘婿の赤松政秀の下に身を寄せることで、辛うじて西播磨に勢力を維持するだけとなっていた。
そのため、有力国衆の浦上家、宇野家はほぼ独立状態。小寺家は辛うじて赤松家に従っている状態であった。
「晴政。お主はこの者に赤松家と播磨守護・播磨国を任せたのか」
「そのような事はございません。このもの達が勝手に言っているだけでございます」
「正式な播磨守護である赤松晴政が、お主達に赤松家と播磨国を任せた覚えはないそうだ」
「幕府はそんな無能の肩を持つのか」
「無能だと、儂にはお前達が無能に見える。既に時代は大きく動き出し変わり始めている。儂が布告した惣無事令はその始まり。お前達は惣無事令に違反している。それゆえ幕府は、お前達に播磨国を任せることは無い」
「そんなふざけた話があるか、惣無事令だと。そんなものを守る者はいない」
「惣無事令には、この先のあるべき姿があるのだ。ふざけているのはどっちだ。ならば、いつでも相手になるぞ」
「後悔されますぞ」
「クククク・・・その根拠のない自信はどこからくる。虎の威を借る狐らしい言い草よ。後ろ盾は尼子か、それとも毛利か。なんなら尼子も毛利も両方連れて来るがいい。そのほうが手間が省ける。まとめて叩き潰してやろう」
馬鹿にされたと思った赤松義祐は顔を真っ赤にしている。
「いいでしょう。後悔されても知りませんよ」
赤松義祐と浦上政宗は上杉晴景の本陣を後にした。
2人が出ていくと播磨国守護赤松晴政は、上杉晴景に向かって両手をついて頭を下げていた。
「申し訳ございません。我が力が至らぬばかりに、このような失態を晒し、幕府管領様のお手を煩わせてしまいました。この責めは如何様にでもお受けいたします」
「晴政」
「はっ」
「嫡男と守護代が敵に回った今のお主の状態では、我らが播磨を平定した後に任せても、国衆を抑え、尼子・毛利に対抗していくのは厳しいであろう。今の西播磨の国衆は、大なり小なりなんらかの形で尼子か毛利の影響を受けている」
「申し訳ございません」
「播磨国平定後は、当面の間ここ播磨国は将軍家直轄領とする。晴政は将軍足利義輝様の代理としてこの播磨の地を管理せよ」
「承知いたしました」
「ならば、残りの西播磨の掃除を始めるとするか」
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