第262話 三木城落城
三木城に次々に大砲による攻撃が続いていた。
屋根が撃ち抜かれ、壁が撃ち抜かれ、大きな穴が空いていく。
本丸から見える三木城が様変わりしている。
三の丸・東の丸・新城は既に半壊状態となっていた。
本丸も酷い有様となっている。
屋根には幾つも大きな穴が空き、壁にも幾つもの大きな穴が空いている。
無傷なのは奥に位置する二の丸。
砲撃が止むと一斉に上杉の兵が動き出す。
三の丸・東の丸・新城へと軍勢が動いていく。
本丸から様子を見ている別所就治には、もはやそれを防ぐ手立てが無かった。
「これが戦いなのか・・・これは儂の知る戦いでは無い。儂らは何と戦っているのだ」
呆然としながら呟いていた。
別所就治は、籠城しての戦いには自信を持っていた。
万の大軍の攻めにも耐えられるだけの強固な備え。
長期間の籠城に耐えられるように蓄えてある兵糧。
日照りが続いても枯れることのない多数の深井戸。
山中の密かに張り巡らしてある多数の間道。
自信の根拠となっていたものが何の力も発揮することなく、城が破壊されていく。
目の前で頑丈な門があっさりと破壊され、分厚く簡単には倒れない城壁がいとも簡単に破壊され倒れていく。
籠城戦は、城の城壁や備えを利用して戦うから籠る方が有利なのだが、それがなければ単に数と数のぶつかり合いとなる。
「殿、お逃げください」
「フッ・・今更どこに逃げるのだ。もはや逃げることもできんだろう」
別所就治の表情からは、東播磨を手に入れようとしていたギラついた目つきは消えて、諦めにも近い表情をしている。
そこに新たに家臣がやってきた。
「殿、上杉側からの使者が参りました」
「使者か・・・分かった。会おう」
しばらくすると1人の男が入ってきた。
「上杉晴景様の家臣、宇佐美定満と申します」
「幕府管領殿の家中のものか。それで要件は」
「降伏なされませ。晴景様は別所殿が降伏されれば、別所殿も含め別所家の家臣達の身の安全を保証すると仰せです。別所殿が望めば家臣として雇い入れても良いと仰せです。ただしその場合は、領地は大幅に削られますが」
「切腹するのではないのか、てっきり腹を切れと言うかと思ったのだが」
「切腹したいなら止めませんよ。死にたいならご自由になされませ。死にたい者を止めるつもりはありません」
宇佐美定満は突き放すように話す。
「戦った相手を家臣にするのか、後で反乱を企てるかもしれんぞ」
「信じられないことはわかりますよ。私もかなり昔に晴景様と戦い、敗れて家臣となりました。家中にはそんなもの達が数多くいますから別に珍しくもありません。気にする必要は無いです」
別所就治は宇佐美定満の言葉に驚いていた。
「本気なのか」
「晴景様のお考えは、いちいち殺していたらキリが無い。使える者は使うとの考え。今この時から明日の昼午の刻(昼の12時)まで待ちましょう。それまでの間、我らからは攻めることはありませんから、じっくり考えると良いでしょう。明日の午の刻を過ぎても動きがなければ我らは攻めます。そのつもりで」
宇佐美定満は、三木城本丸を後にした。
明け六つ(朝の6時)の時刻に三木城から別所就治・安治親子が出てきた。
朝日が照らす中、2人は上杉勢のいる中をゆっくりと上杉晴景の待つ上杉本陣へと向かう。
上杉の軍勢はそんな2人に何もせずにじっと見つめている。
何万もの軍勢が物音を立てることも無く、騒ぎ立てることもなく2人の歩きを見ていた。
戦場であるはずのこの場所が異常なほどの静寂に包まれている。
時折、飛び立つ鳥の羽ばたきと鳥の鳴き声、そして2人が草を踏む音だけが聞こえるのみ。
そんな2人が向かう先に宇佐美定満がただ1人で待っていた。
「決心されましたか」
ゆっくり頷く別所親子。
「我らは上杉様に降ることといたします。どうぞ幕府管領上杉晴景様にお取り次ぎくださいませ」
「承知した。ついて来られよ」
宇佐美定満を先頭に3人は進んでいく。
やがて上杉晴景のいる本陣へと到着した3人は中に入っていく。
本陣に入ると奥の中央に上杉晴景。
向かって左に上杉景虎。
向かって右に三好長慶。
さらに周辺には上杉晴景を守る選りすぐりの精鋭と言える近習たちがいる。
「別所殿、こちらにお座りください」
宇佐美定満は、上杉晴景の正面に用意されている床几(椅子)を勧める。
別所就治らは、宇佐美定満の勧める床几に座る。
「別所就治殿、よくぞ参られた。儂が足利幕府管領上杉晴景である」
「別所就治と申します。これなるは別所家を継いだばかりの嫡男安治」
2人は揃って頭を下げる。
「別所殿がここに来たという事は、我配下となることを決心したということか」
「はい。我ら別所家が上杉様の配下となることをお許しください」
「承知した。別所家が我が配下となることを認める。別所家の者達、そしてその家臣達と縁者の命の安全を保証する。現在別所家は、東播磨の8郡を支配している。だが、領地は3郡までとする。残りは将軍家直轄とする」
「全て承知いたしました。これより我らは、忠節を尽くしてお仕えいたします」
「頼むぞ」
こうして東播磨の平定が終わった。
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