第260話 生野銀山

但馬国守護山名祐豊は5千の軍勢を率いて但馬国から東播磨へと入った。

「上様も上杉晴景などと言う成り上がり者を管領職に据えるとは、呆れたものよ」

山名祐豊は馬に揺られながら呟いていた。

「殿、上杉を挟み撃ちにして討ち取ったら、管領職になられたらどうです」

家臣達の祐豊へおもねるような言葉に頷いている。

「それも良いかも知れんな。このまま上杉を討ち取り、その勢いで東播磨を切り取る。そして、上様には隠居していただき新たな将軍様のもとで管領となるのも悪くないな」

「上杉なんぞ、物の数ではござらん」

そこに家臣が慌てて駆け寄ってきた。

「正面に軍勢が現れました。上杉勢と思われます」

慌てて軍勢の見える場所に移動する。

数多くの上杉家の旗印。

「上杉め、生意気にも待ち伏せか」

すると上杉側より、上杉景虎の大きな声が聞こえてきた。

『山名祐豊殿。尻尾を巻いて逃げていけば見逃してやろう。戦下手な山名にはそれがお似合いであろう。ハハハハ・・・』

上杉側より一斉に笑い声が湧き上がる。

「おのれ・・・成り上がりの分際で・・我らの力見せてくれる。矢を放て!」

山名の陣営から一斉に多くの矢が放たれる。

上杉側よりは多くの盾を用意しており、盾で矢を防いでいた。

盾の後ろには大量の鉄砲が見えている。

『将軍家の旗印に矢を射掛ける謀反人ども、不埒な謀反人どもはこの上杉景虎がことごとく成敗しくれる』

上杉の陣営から再び上杉景虎の大きな声が響き渡る。

「何、将軍家の旗印だと」

山名祐豊は慌てて上杉の陣営をよく見る。

上杉の旗印に混じって将軍家の丸に二つ引きの紋が描かれた旗印が多数あった。

「しまった!これは不味い。戻れ・・・・」

上杉の陣営に向かって駆け出している山名の軍勢に一斉に鉄砲が撃ち込まれた。

鉄砲の射撃は止まることなく、山名勢に撃ち込まれていく。

「馬鹿な、鉄砲をあれだけの数揃え、打ち続けるなど・・ありえん」

山名祐豊は鉄砲の存在は知っていたがまだまだ高価であり、一度撃つと次に撃つまで時間がかなりかかること、さらに運用するためには莫大な火薬が必要になるため戦には使えないと考えていた。

せいぜい牽制にしか使えないと考えていたのだ。

しかし、目の前に大量の鉄砲を実戦で運用している存在がいる。

その事が信じられなかった。

「あ・・あれほどの量の火薬・・・どうやって・・・」

呆然としている山名祐豊に焦った家臣達が声をかける。

「殿。ここは急ぎ撤退を・・・このままでは危険です」

目の前では、すでに先鋒が完全に崩れ、立て直せないほどの大きな損害が出ているのが一目で分かった。

「クッ・・・下がれ!撤退だ」

慌てて山名勢は撤退を開始。

思いもよらない上杉勢からの鉄砲による集中攻撃に総崩れとなり、そこに撤退が重なり一層混乱に拍車をかけることになる。

そんな山名勢に上杉勢の長槍が突進してくる。

混乱状態の中次々に長槍の餌食となり倒れていく山名家の足軽達。

山名祐豊の近習の者達が必死の防戦をしながら後退を続けていく。

山名勢は戦場に多数の骸を晒してながらも辛うじて引き上げていった。

山名祐豊が居城である此隅山城このすみやまじょうに戻った時は、軍勢は500人程となっていた。



総崩れとなり逃げていく山名勢を見ている上杉景虎。

「深い追いをするな」

「よろしいのですか、もう少したたいても良いのでは・・・」

三好実休はもう少し山名を叩いても良いのではと考えていた。

「我らの役目は、山名を蹴散らし生野銀山の確保である。将軍家の旗印に矢を射掛けた謀反人は後日ゆっくりと締め上げれば良い」

「承知しました」

「全軍、生野銀山へ進め」

景虎は全軍で生野銀山へと向かった。

戦いの場からさほど遠くない、意外と東播磨に近い山中にあった。

生野山には古い生野城があるが、銀山の管理運営のために最近山名氏が改修して麓にも館を築いていた。

「館も城も誰もおりません」

館と城を調べた家臣達の報告を聞いた景虎は、この地域の庄屋を連れてくるように指示した。

家臣が1人の老人をを連れてきた。

「お前がこの周辺の庄屋か」

「は・・はい・・」

「別に危害を加えるつもりは無い。村人達から略奪もするつもりは無い。もしも配下の者達が乱暴狼藉や略奪を働くようであれば、いつでも申し出よ。厳正に処罰する」

「ありがとうございます」

「山名家の家臣達はどこに行ったか分かるか」

「山名様が戦で負けたとの話が伝わり、さらに上杉様の大軍がこちらに向かっているとの連絡が入ると、山名様の御家来衆は城にあった銀を持てるだけ持ってすぐさまここから立ち去りました。おそらく既に周辺には居ないと思います」

「そうか。ならば、当分の間はここは我らの支配下に入る。最終的には生野銀山などは将軍様の管理下に入ることになるであろう。領地に関しては、将軍様の御判断を仰ぐことになる」

「承知いたしました」

「領民達は今まで通りの生活をしてもらって良いぞ」

「ありがとうございます」

庄屋は何度も礼を言って帰って行った。

「実休殿、ここに5千の守りを置いて我らは三木城攻めに加わるとするか。着いた時には終わっている可能性が高いとは思うが・・・」

「承知いたしました」

景虎は生野銀山の守りとして5千の兵を残して東播磨の晴景の下に戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る