第251話 大和国平定への一歩(5)
大和国南部に勢力を持つ越智氏は、迫り来る松永久秀の軍勢を迎え撃つため、慌ただしく動いていた。
越智氏の居城であり館でもある越智城。
越智城の詰城である貝吹山城。
それぞれ要害の地にある城であり、南北朝時代に南朝側として戦ってきた越智氏の歴史を支えてきた城であり、戦いに自信を見せていた。
筒井家は北朝側、越智家は南朝側としてお互いに戦いながら、時には手を組み長い歴史を刻んできた。
越智氏の当主である越智家高の表情はいつもと変わらない。
越智家高は数名の家臣と共に情勢を話し合っている。
「十市家は松永に付いたか」
「はい、それと北部は松永久秀に制圧されたようです」
「チッ・・早いな。筒井も思ったよりも使えぬな、今井郷の一向一揆の動きは」
「残念ながら今井郷の一向一揆は完全に抑え込まれたようで、一向一揆は今井郷に押し込められております」
「使えるなら松永勢の後方撹乱で利用してやろうと思ったがダメか」
慌ただしく家臣が走り込んでくる。
「松永久秀の軍勢が近づいて来ております」
「よし迎え撃つぞ。数を揃えれば良い訳では無いことと山中での戦いと言うものを奴らに教えてやろう」
立ち上がり歩き出したところ背後から左胸に激痛が走る。
見ると左胸に刃が飛び出していた。
倒れながら後ろを見ると同じ越智一族の越智家増が笑いながら立っていた。
「ハハハハ・・・こうも簡単にいくとは」
「き・・・貴様・・・」
「安心しろ、越智家は俺が貰い受けて立派に繁栄させてやる。だからとっととあの世に行きな」
他の家臣たちは背中を向けてを見ないふりをしている。
「は・・・謀った・・・な」
「ハハハハ・・・悪く思うなよ。騙す騙されるは乱世のならい。お前も散々使った手だろう」
越智家増は、家高の息絶えた事を確認するとその場にいるものに宣言する。
「皆の者、越智家高殿が不慮の病で亡くなられた。今この時より、越智家はこの越智家増が継ぐものとする。異論がある者はいるか」
「「「「「異論ございません」」」」」
「直ちに松永久秀殿に使者を送れ、我らは松永殿に、幕府に従うと伝えよ」
越智家増の使者がすぐさま松永久秀の下に送られた。
越智城の見える場所に本陣を置いた松永久秀は、越智家増の下剋上が失敗した場合も考え、いつでも戦える状態で様子を見ていた。
先鋒となる兵たちには、油断せずに待機せよと指示を出している。
松永久秀がいる本陣の中には、嫡男の久通と十市遠勝がいた。
「十市殿。越智家増は間違いなくこちらに付くのだな」
松永久秀の問いかけに十市遠勝が答える。
「間違いなく我らに味方するとのこと、既に家中に根回しを終え、自らの手で越智家高を始末すると言っておりました。さらに、蹴りがつき次第こちらに使者を送るとも言っておりました」
「分かった。ならばしばらく待つとするか、もしも越智家増がダメなら力で押し潰すまでだ。何も問題無い」
「父上、越智城から誰か出て来ましたぞ」
久通の声を聞き、越智城の方を見ると越智城から白旗を掲げた者が1名駆け出してきた。
「間違えて討たぬようにせよ。越智城からの使者であろう」
松永久秀の指示はすぐさま前線の兵に伝えられた。
白旗を掲げた人物は、越智家増からの使者であった。
越智家増の使者はすぐに本陣へと案内される。
「ご苦労である。越智家の意志は如何に」
「越智家の当主であった越智家高様は急な病により先ほど死去いたしましたため、急遽ではありますが、越智家増様が越智家を継がれます。新しい越智家当主越智家増様は松永様に従うとのお言葉にございます」
「フフフフ・・・そうか。急な病とはそれは大変なことでしたな。承知した。越智家を越智家増殿が継ぐことを認め、越智家の所領を安堵する。そう申し伝えよ」
松永久秀の言葉を聞いた使者は急ぎ越智城に戻っていった。
「父上、これで大和国平定は8割がた片付きましたな。残るは一向一揆勢と興福寺ですね」
「一向一揆勢の今井郷と興福寺の扱いに関しては、晴景様と相談する必要がある」
「なかなか面倒な勢力ですから簡単にはいきませんか」
「理を説いても簡単には妥協しない連中だ。腰を据えてかかるしか無いだろう」
「我らが大和国を治めるためには我らの城を定めねばなりません。如何します」
「ならば河内国と大和国との境にあり楠木公が築城したと伝説のある
「信貴山城ですか・・楠木公に多少なりともあやかる事を考えてのことですね」
「何事もゲン担ぎは大切だ。縁起がいいことは重要だろう」
「確かにそこは大切ですね」
「さて、晴景様に報告に行くか」
松永久秀は大和国南部の平定が完了したことを報告するため上杉晴景の下に向かった。
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