第249話 大和国平定への一歩(3)
大和国今井郷の集落に引っ込んだ一向一揆勢に対して、上杉晴景は挑発行為を繰り返すが出てくることは無かった。
わざと今井郷の目の前で酒宴を開いたり、相手側を罵倒したり、定期的に鉄砲を撃ち込んで見るが完全に無視を決め込んでいる。
一向一揆勢は、今井郷を取り囲んでいる土塁や櫓の上からこちらを見ているが、全く動こうとはしない。
「晴景様。これだけ挑発しても出てきません。どう致します」
やや渋い表情の三好長慶。
「ならば、いつもの様にやるまでだ」
「いつもの様に・・・?」
「景家」
「お呼びでしょうか」
上杉晴景の声にすぐさま柿崎景家が答える。
「どうやら一向一揆の連中は、鉄砲と大砲の攻撃がかなり応えた様だ。どんなに挑発しても今井郷の集落から奴らは出てこない」
「ならば集落に大砲を撃ち込みますか」
「いや、一揆勢と関係無い者も多少はいるだろう。我らの役目の第一は一向一揆を他に行かせない事だ。引き籠もっているなら、そのまま静かに引き籠もっていて貰おう。柵を作り今井郷を隙間なく囲め」
「承知いたしました」
「長慶」
「はっ」
「柿崎景家達に柵の準備をさせる。準備が出来次第一気に建てて奴らに邪魔をする隙を与えすに今井郷集落に閉じ込める。それまでの間、三好勢で今井郷の集落を取り囲んでいてくれ」
「承知いたしました」
柿崎景家ら上杉勢は周辺の木を伐採して準備を始めた。
上杉勢5千が一斉に柵の用意を始めたため、1週間かからずに準備が完了した。
陣営の後ろには大量の丸太。
組み上げが終わり、建てるだけになっている柵。
「晴景様。準備が完了しいました。いつでも行けます」
柿崎景家の報告を聞き頷く上杉晴景。
「良し、直ちに柵を建て、奴らを今井郷の中に閉じ込めろ」
「はっ」
「長慶。柵を建てる間、警戒をしっかり行え、邪魔をさせるな」
「承知いたしました」
三好勢が警戒する中、上杉晴景の合図と共に上杉勢5千が一斉に柵を建て始めた。
柵を固定するため地面を掘る者。
丸太を運ぶ者。
出来上がっている簡易的な柵を運ぶ者。
掘られた穴に出来上がっている柵を入れ、建てて周辺を補強していく。
「急げ〜」
柿崎景家の声に答えようと必死に柵を作っていく。
事前に準備をしてあったため、どんどん柵が出来上がっていく。
今井郷の環濠集落を柵が取り囲んでいく。
一揆勢はこちらの意図が分からないらしく、櫓の上や、土塁の上から大勢の者達が眺めていた。
柵が出来上がる間際になってから、上杉晴景の意図に気付いたらしく慌てて出てきた。
「弓構えろ。よく引きつけろ・・・放て」
三好長慶の合図で三好勢の弓隊から矢が放たれた。
大量の矢が一向一揆に降りかかる。
多くのものに矢が刺さり、傷を負うがそれでも進んでくる。
「長槍準備」
三好勢の長槍は隙間なく並べられて三好長慶の指示を待っている。
「長槍隊突撃。奴らを押し返せ」
「お〜〜〜〜」
隙間なく並ぶ三好の長槍が一斉に前に走り始める。
三好の長槍の餌食となっていく一向一揆勢。
長槍の突撃で一向一揆の前線が崩されていく。
引こうする一揆勢に長槍を上から叩き付けて打ちのめす。
柵が完成して手の空いた上杉勢が鉄砲を構える。
「手の空いたものは鉄砲を構えろ。味方に当てるなよ。出てきてる奴らの後方を狙え。撃て」
柿崎景家の号令で一斉に火を吹く鉄砲。
今井郷の集落から援軍を鉄砲で狙い撃ちにして前線を孤立させる。
追加の援軍がないため、前線を維持できずに一向一揆勢は今井郷へと逃げ帰った。
柵は完成して今井郷の環濠集落は、外部との繋がりを絶たれることになった。
柵を壊そうと近づけば、鉄砲と弓矢の餌食。そこを掻い潜っても長槍の餌食となるだけで、上杉側は、柵をさらに強固にするために補強工事を始めた。
「さて、奴らはいつまでもつかな」
「集落ですから作物も取れます。長くかかるのでは・・・」
「長慶。集落の人間だけなら1年でも2年でももつだろう。今回は伊勢長島からかなりの人数が入っている。その状態でどこまでもつかな。食料の消費も激しいだろう。見知らぬもの達が大勢いる。閉じ込められた狭い集落内に多くの見知らぬもの達がいる。それだけで息が詰まる思いであろう。そのうち内部で些細な事で衝突が始まる」
「このまま閉じ込めておかれるのですか」
「松永が越智を片づければここだけだ。そうなれば内部から切り崩していけば崩壊する。大砲を時々打ち込み奴らを寝かせず追い込むこともできる。最後の手段として大砲を徹底的に打ち込むこともできる。柵が出来上がった時点で終わっているのだ。もし、あと10年ほど経ってからここを攻めることになっていたら、ここまでのことは出来なかったかもしれん。その頃になれば、集落を取り囲む土塁は今以上に高く、堀は深く、まさに城砦のような街になっていたであろう」
「城砦の様な街ですか・・・」
「今のうちに解体しておかなければ手に負えなくなる。それほどの相手だ」
上杉晴景と三好長慶は、土塁や城壁、櫓を備えた今井郷の集落を見つめていた。
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