第247話 大和国平定への一歩(1)

松永久秀が筒井城を制圧。

筒井城には松永久秀の旗印である蔦紋が風に靡いていた。

蔦は子孫繁栄を表しているされ、多くの武将や家々で好んで用いられる家紋でもある。

領民達は筒井城が松永久秀率いる幕府軍に、一夜で制圧されたと聞き信じようとしなかったが、筒井城の城壁で風に靡く蔦紋の旗印を見てその事を信じるしかなかった。

多くの領民が遠巻きに筒井城の様子を見ている。

「一夜で制圧されたって本当かよ・・嘘じゃないか・」

「よく見ろ。城壁に掲げられている旗は、蔦紋の旗だらけだぞ」

「本当だ。筒井様の梅鉢の紋じゃ無いぞ」

「一体誰だよ」

「松永久秀様と言われるらしい。立札を見てないのか」

「字が読めん・・・」

「そ・そうか・・将軍様の命で大和国平定に赴いたため、領民には危害を加えるつもりは無いと書かれていたぞ」

「誰でもいいけど、重い年貢だけは勘弁してほしいな。そうじゃなければ、領主は誰でもいい」

「そりゃそうだな」

多くの領民は、筒井城の旗印と各地に立てた立札を見て噂話に花を咲かせている。


筒井城の天守で松永久秀は、城を遠巻きに見ている領民達を見ていた。

「松永殿」

振り返ると宇佐美定満であった。

「宇佐美殿どうされた」

「晴景様よりの書状である」

宇佐美定満が一通の書状を渡してきた。

書状を開き目を通す。

「大和国はもともと守護不在のためこのまま大和国を平定できるならば、この松永に大和国を任せることを将軍義輝様が承認されたそうだ」

「ほう、それはめでたい」

「それと、筒井藤勝を晴景様が二条城で預かると書かれている」

「それは珍しいな」

「珍しいのか」

「晴景様は、あまり人質を取る事をされない。人質がいないわけでは無い。裏切る者は、人質がいてもいなくても裏切るものと考えておられるため、積極的に人質は取ることをされないのだ」

松永久秀は驚いていた。

戦国乱世は人質を取ることが普通。

多くの国衆は人質として身内を差し出している。

「宇佐美殿は・・・」

「儂は領地は要らないと表明して、その代わりお側に仕える道を選んだ。儂そのものが人質と言えなくも無いか・・身内は全て春日山城下に住んでいる」

「ならば儂もそれに倣った方が良いか」

「それは大和国を完全に掌握できてから考えれば良い。それまでは大身の国衆からは人質を取るべきだろう」

「そうか、それもそうだな」

そこに松永久秀の家臣がやってきた。

「どうした」

「筒井家配下の全ての国衆が広間に揃いました」

「分かった。すぐに向かう」

松永久秀は、宇佐美定満と共に広間に向かった。

広間に入るとすでに三好実休がいた。

「久秀殿、早かったな」

「待たせてすまん」

「皆揃ったばかりだ。問題無いだろう」

松永久秀、宇佐美定満、三好実休らは広間の上座に座る。

目の前には筒井家の配下となる国衆が控えている。

「儂が松永久秀である。儂に従うなら領地は安堵とする。従わぬならすぐにこの場から出て行け。その後は、戦さで会うことになろう」

出ていくものは誰もおらず、広間は静かであった。

「ならば、筒井家の扱いを話す。筒井順政殿は隠居して出家。筒井藤勝殿は京の都にある上杉家二条城にて上杉晴景様預かりとなる」

ざわつく国衆達。

筒井順政は静かに頭を下げる。

「承知いたしました。藤勝はこの大和ではダメでしょうか」

「これは、上杉晴景様の命である。従ってもらう。京の都で上杉晴景様の側にいることは得難い経験と学びになるはずだ。彼の方のお側に仕えたい、知己を得たいと考えるものは多い。だが、それを認められるものは少ない。その方のお側にいることを喜ぶべきだろう」

筒井順政の横に座る筒井藤勝が口を開く。

「承知いたしました。この筒井藤勝。上杉晴景様のお側にて学ばせていただます」

筒井藤勝を上杉晴景が預かるとの申し出は、松永久秀からしてもありがたい話であった。

このまま大和国に置いておけば、いずれ反乱の目となる。

一向一揆との戦いもあり、筒井家との戦いで無駄な消耗を避けるため生捕りにしたが、状況によっては座敷牢に一生幽閉か始末することを考えていた。

そのどちらの選択もする必要が無く、京の二条城で筒井藤勝を預かれば、距離もあるため簡単には反乱もできない。

松永久秀は、筒井藤勝が素直に二条城に行くことを了承してくれて、正直ホッとしていた。

「久秀様」

家臣から声がかかった。

「どうした」

「上杉晴景様がお越しです」

「な・・なんだと・・」

松永久秀の声と同時に上杉晴景が三好長慶と共に広間に入ってきた。

「松永殿。ご苦労である」

松永久秀、宇佐美定満、三好実休らは、慌てて上座を空け左右に座り直す。

「晴景様一体どうされたのです」

「平定の具合を見るついでに筒井藤勝殿を預かって行こうと思ってな。それともうひとつ大和平定の後押しだな」

「後押しでございますか・・・」

「儂らが今井郷の一向一揆を抑えておく、その間に越智家を下して参れ。越智家を下せば残りの大和国衆は従うであろう。その後に今井郷の一向一揆と決着をつけよ」

「承知いたしました。必ずやご期待に添えるようにいたします」

控えていた筒井順政・藤勝・大和国衆は、松永久秀の態度から上杉晴景の持つ力の大きさを感じ取っていた。

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