第245話 今井郷一向一揆
「晴景様。松永に大和国の件を任せてよろしかったのですか」
三好長慶は、上杉晴景が松永久秀に大和国平定と、その後の大和国の管理を任せようとしていることに疑問を感じていた。
「松永には一国程度なら動かす能力がある」
松永久秀は幕府内の各要職をそつなくこなしていた。
「それは確かにあるとは思いますが」
「普通の者なら、役目が変われば簡単には順応出来ないものだが、松永久秀は簡単にこなしてみせる。必要な要点をすぐさま見ぬき、実行してみせる能力の持ち主はなかなかいないものだ」
「それは、そうですが」
「ならば、一度試してみるのもいいだろう」
「試すですか?」
「そうだ。我らの手勢は、大した被害を受けること無く河内国を平定出来た。河内国の敵対勢力は一掃出来ている。大和国の今井郷の一向一揆に伊勢長島からの援軍も加わっているが、やりようによっては、意外と簡単に大和国を完全に抑えこめると見ている」
「松永久秀がどうやって一向一揆と大和国衆を抑え込むか見るおつもりですか」
「フフフフ・・・上杉と三好の精鋭を付けてやるのだ。それをどう動かしてみせるのか、どうやって混乱の坩堝のような大和国を治めるか楽しみではある」
「ならば、我々はどう致します」
「上杉と三好の軍勢は、しばらくこの高屋城に止まる。大和国には入らずに河内国内でいつでも大和国に入れるように見せて、敵側を牽制することにする」
「大和国に入るのは1万8千でも、そのすぐ後ろにそれに匹敵するの援軍が控えている事を見せておくということですか」
「大和国衆は基本興福寺に関わる者達だ、一向一揆とは相容れない存在。さらに大和の有力国衆である
「なるほど、そこに我らの軍勢は丹下殿支援で入る。一向一揆が我らに刃を向ければ、越智氏や筒井氏から背後を攻められる。越智氏や筒井氏が我らに刃を向けたら一向一揆に背後を攻められるですか」
「我らを無視もできず、かといって攻めることもできず。一揆勢は伊勢長島からの大量の援軍に無駄飯を食わせて遊ばせることもできん」
「ならば、一向一揆と越智氏・筒井氏の3者がそれぞれ戦うように持っていくことですな」
「実際既に大和国衆と一向一揆の戦いは始まっている。そこをさらにけしかけていけば、3者共消耗してくれて楽になる。抑え込んだらそれぞれの弱体化をしていけばいいだろう」
大和国今井郷
「敵襲〜敵襲〜」
深夜で眠り込んでいる一向一揆の陣営内に敵の攻撃を知らせる声が響き渡る。
「忌々しい奴らだ。今日こそ逃すな」
今井郷の中心となっている1人の河合清長は厳しい表情で指示していた。
今井郷は堀をめぐらし土塁と柵で囲まれた大規模な環濠集落であるが、まだこの頃は堅固な作りにはなっておらず、度々越智氏などの攻撃で寺院を何度も焼かれていた。
今回伊勢長島からの手勢もきたことから守りを強固にする事を考え、堀の幅を広げ、土塁や柵をより高く強固なものにするべく工事を始めていたところであった。
「清長殿。また夜襲か」
そこに、この今井郷に称念寺を作った今井兵部が近づいてきた。
眠っていたところ夜襲騒ぎで起こされ慌てて出てきたため甲冑は身につけていない。
今井兵部は、興福寺の衆徒である越智氏に何度も寺を焼かれては、その都度諦めることなく再建を繰り返していた。
「兵部殿。まったく忌々しいことだ。こちらが叩きに出ればすぐさま逃げる。家々に火をかけられたり、柵を燃やされたりしているが敵を叩くことができん」
そこに1人の若者が走り込んでくる。
「兵部様」
「どうした」
「逃げる敵を追いかけたところ、途中にこのような物が」
差し出されてきたのはいくつもの旗であった。
真新しいようだが踏まれて泥まみれになっている。
「どうやら慌てて退却した敵が落としていった物のようだ」
今井兵部は泥まみれの旗を広げるて見る。
そこには立引ニ
中心に縦棒2本その両隣に柏の葉が1枚づつ描かれている。
もう一枚を広げると
梅の花びら5枚を丸い円で表現している家紋である。
「やはり越智の連中か・・そこに筒井も手を貸しているのか」
大和国では興福寺の力が強い。
ほとんどの国衆は、次男、三男など家を継げない者の多くを興福寺に入れ、興福寺の衆徒となって強い繋がりを持っていた。
泥まみれの旗を握る今井兵部の手に力がこもる。
「清長殿。このままではキリが無い。こちらから打って出るしかあるまい。幸い伊勢長島からの手勢もいる。越智攻めと筒井攻め、そして今井郷の守りと分けて動こう」
「宇智郡にいる上杉と三好の軍勢はどうする」
「奴らは、宇智郡に入ったまま動いていない。河内との境付近には後詰めとなる軍勢もいるようだ。丹下の支援が目的と思う。下手につついては面倒だ。向こうが動かぬ限り放っておこう」
「承知した。夜明けと共に越智攻めと筒井攻めを始める事としよう」
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